2019年M-1・インタビューなぜ“神回”になったか『インディアンス』

お笑い芸人さんのヒストリー大好き、不器用な男たちが真剣に戦っている、スポーツも勿論だけどお笑いも充分に感動する!そして笑顔にしてくれる、最高じゃないか!お笑い芸人。

文春

「過去最高って言ってもいいのかもしれないですね」

大会の締めに審査員のダウンタウン松本人志がこう語るほど、2019年のM-1は沸いた。では何がこの“神回”を作ったのか。出場した漫才師たちのインタビューから、その答えに迫っていく。

決勝7番手で登場し、史上最高の681点を叩き出したミルクボーイ。最終10番手で日本中をあっと驚かせたぺこぱ。その間、9番手としてM-1舞台を踏んだのがインディアンスだ。

年間400回以上舞台に立つ彼らは、同じ12月にTHE MANZAIに出場するなど評価が高く、お笑いファンの間で“隠れ優勝候補”と評判だった。そんな彼らが経験した「初のM-1」とは――。

「笑神籤(えみくじ)はヤラセだと思ってた」
――インディアンスさんの出番は9番目でした。そこまで待つのは、やはり大変でしたか。

田渕 早い方がいいなと思ってたんですけどね。

きむ 僕、笑神籤(えみくじ)はヤラセだと思ってたんですよ。

――本気で?

きむ はい。僕ら、明るいイメージが強いんで、ライブやネタ番組でもトップ出番が多いんです。盛り上げるために。なので、僕ら、また1番なんやろなと思っていて。

田渕 笑神籤が導入されてからは、17年はゆにばーす、18年は見取り図さんと、いずれも初出場組なんです。そこも、僕らは当てはまってるんで。

――ところが、トップバッターはニューヨークでした。

きむ そうなんです。で、次、かまいたちさんだったでしょう。それで、やばいと。笑神籤はガチやって。ヤラセで、優勝候補のかまいたちを2番目には持ってこないでしょうから。あの瞬間、ガチガチになりました。キュッと緊張してもうたんです。

ジャルジャルの後藤さんは「絶対ガチや」って
――でも、ヤラセだったとして、どうやって思い通りのクジを引かせるんですか。

きむ 芸人の間でいろんな噂があったんですよ。

田渕 めっちゃおもろい噂ありましたよ。誰か忘れたんですけど、決勝行った人が、笑神籤のボックスが6個あったって。1個のボックスの中を全部同じにクジにしとけば、誰が引いても同じコンビを出せるじゃないですか……って、そんなことあるか!ってあの日痛感しましたね。4回出てるジャルジャルの後藤さんは「絶対ガチや」ってずっと言ってましたもんね。

――やはり笑神籤システムは大変ですか。

田渕 あんなシステム、経験したことないじゃないですか。トップもあれば、トリの可能性もある。どのタイミングで出番が回ってくるかわからないので、テンションの起伏が激しくなっちゃいましたね。「今、呼んでくれ。ああ、ちゃうんか……」みたいな。そこで1回、疲れちゃう。で、またネタが終わって、「来い! ちゃうんか」と。そんな感じで、9番目まで引っ張られちゃったんで。

「笑ってるツッコミが好きじゃない」発言の影響は?
――この大会は本当にいろんなことがありました。まず、1番目のニューヨークのネタの後の講評で、審査員の松本(人志)さんが、笑ってるツッコミが好きじゃない、という趣旨の発言をされました。あの言葉の影響はありましたか。

きむ 僕、去年のテーマが「楽しく、ゆるく」やったんです。だから、どうしようってなって。

田渕 あれは、なかなかのひと言でしたよね。トップバッターへのひと言ですからね。残り9組も控えてる。みんな「エーッ!」みたいな感じになりましたね。ツッコミの中にピリッとした感じが走ってましたもん。

きむ 「笑ったらあかん」って言われたようなもんですからね。ああいうのはちょっと……今後、やめていただきたいですね!

田渕 松本さんの言葉は、みんな気にしちゃいますから。6番手の見取り図のとき、盛山(晋太郎)さんが、松本さんに、ズボンの裾がブーツに引っかかってるのが気になったみたいなことを言われて、裏でみんな自分たちの裾見てましたもん。そら、気になりますわ。みんなあの人を見て育ったんやから。

かまいたちの高得点で「最終決戦には650点以上は絶対いるな……」
――2番手のかまいたちのネタはモニターで見ていたのですか。

きむ いや、全部は見ていなかったと思います。トイレ行ったり、裏で練習してたりしていたので。ほとんどみんなそうしているんじゃないですかね。和牛さん(暫定3位)が9番目の僕らのネタは見ていたのに、ラストのぺこぱの出番のときは裏でネタ合わせをしていたというエピソードが出回って、「失礼だ」みたいな捉え方をしている人がいましたが、実際は、人のネタを見てる余裕なんてないですから。ほとんどみなさん他の組のネタは見てなかったと思いますよ。

田渕 トップのニューヨークのときくらいじゃないですか。みんな座って、モニターを見てたのは。今日のお客さんはどんな感じなのかな、って。

――後ろの控え席にいなくても、ウケてるかウケてないかくらいはわかるものですか。

田渕 直で聞こえてくるので、わかります。かまいたちさんの時も、すっごい盛り上がってましたよね。それで高得点(660点)も出て。僕はむっちゃいい兆しだと思ってたんですよ。これは決勝、盛り上がるぞ、と。

――でも、出番を控えている者としては、他のコンビがあれだけウケているのは重圧にもなるわけですよね。

田渕 もちろん、やばいなっていうのもありました。これが1位通過の点数やとして、最終決戦に行くには650点以上は絶対いるなとか、計算しちゃいましたね。そうしたら、次、敗者復活で和牛さんが、まさにその652点を出して。ちょっと、エッ! すごっ! これが決勝なんやと思いましたね。ど頭から、こんな感じなん? って。ところが、後半、その660点を上回る人が出てくるんですけどね。

ミルクボーイは「トイレまで“ウケ”の声が聞こえた」
――やはり、ミルクボーイさんの評判は聞いていたのですか。

きむ そうですね。3回戦ぐらいから、すごくウケてたと。

田渕 僕は、めっちゃ滑ってるところも観たことあるので、どっちが出るかなと思ってたんです。ただ、予選の段階で芸人の中でいちばん評判がよかったのはミルクボーイさんやった。ってなると、決勝の審査員の方々は、ほとんど芸人なわけじゃないですか。ドハマりする可能性もあるなと思っていました。

――ミルクボーイさんのときも、やっぱり裏でネタ合わせしていたんですか。

きむ 僕らはしてましたね。裏のトイレのあたりで。

田渕 そこまでウケてる声が聞こえてきましたから。マジで。すごかった。

――ミルクボーイが過去最高となる680点を出しました。さすがに、あれだけウケた後の出番は嫌ですよね。

田渕 いや、でも、もう引っ張られるよりは、早う出たいという気持ちの方が強かったですね。正直、しんどかったです。違う名前が呼ばれるたび、ああ、まだなんや、しんど、って。

――残り組が少なくなってくると、なんとなく仲間意識みたいのが出てくるものなんですか。

田渕 いや、残ってる組が多いときのほうが、まだ、しゃべる雰囲気になるんですよ。2、3組になってくると、みんな次こそ自分かもしれんってなるんで、そこまで会話できひんようになる。

――そして、残り2組となり……。

田渕 ここまできたら、もうぺこぱさんか僕ら、どっちかなんで、気持ちはできてましたね。けど、待ってる時間が長過ぎて、いつもの自分とはちゃうなと思っていました。

きむ なんか、今日はたぶっちゃんがかかり過ぎてるなというのはあった。でも、それを下手に指摘して、逆効果になっても嫌なので何も言えませんでしたね。

文春

史上最高と言われる2019年のM-1。なぜあれほどの“神回”になったのか。出場した漫才師の連続インタビューでその答えに迫っていく。

初出場コンビが7組という異例の大会。GYAO!が行った優勝予想では、人気1位敗者復活組、2位かまいたち。そして3位がインディアンスだった。初出場組のなかで最も事前評価の高かった“ダークホース”。しかし決勝の舞台で信じられないことが起きる――。

最初は「あ、アドリブ出てる、めっちゃ調子ええやん」
――いろいろなところですでに、本番中じつはネタが飛んでしまったという失敗談をされていますが、動画を見直しても、ぱっと見、ぜんぜんわかりませんでした。

田渕 そうおっしゃられる方が多いですね。やってる僕らからすると、めちゃくちゃやってもうたという感覚だったんですけど。

――M‐1のときの動画と、他の劇場でやったときの動画、2つを並べて少しずつ見比べて、ようやくわかりました。序盤、田渕さんが「許してちょんまげ」と言ったあと、何秒か言葉が出てこなくなっていました。

田渕 そうです。あそこらへん何を言ってるかわからないじゃないですか。ああやって、次のセリフを思い出そうとしていたんです。

きむ 出だしは快調やったんです。2発目のボケで、アドリブも入れてて。あ、アドリブ出てる、めっちゃ調子ええやん、と。

M-1史上初ネタ途中で「すみませんでした」……
――ちなみにそのアドリブは、どんな内容のものだったのですか。

田渕「ごめん」って謝るところで、(合わせた手の一方、右手を前に出しながら)「3D、3D」みたいな。(手が)前に出てるよ、と。でも、普段からアドリブを入れてるから、その通りやろうと思い過ぎてアドリブを入れなきゃいけないと義務のようになってた。そんなん、もうアドリブじゃないですからね。

――田渕さんがネタを飛ばしてしまったとき、きむさんは?

きむ 終わったな、と。M‐1史上、初めてネタ途中で「すみませんでした」って謝らなければならないかなと思いました。

田渕 あそこは僕が先行してしゃべっていくパートなんで、僕が飛んだら話にならないんですよ。相方も救いの手を差し伸べようがない。

きむ 僕の立ち位置は、普通やったら審査員席が目に入ってしまう。それが嫌やったので、リハーサルのときに審査員が目に入ってこない視線の位置を見つけといたんです。いつもよりちょっと上の方を見とけば大丈夫だった。でも、たぶっちゃんが飛んだとき、どうにかせんとあかんと思ったら、もろに上沼(恵美子)さんと、松本(人志)さんの顔が視界に入ってきて。僕まで飛びそうになりましたね。審査員の姿が目に入ってしまうという位置関係もやめてほしいですね。

飛んでる「5秒」はとてつもなく長かった
――飛んでる時間は、5、6秒でしたよね。

田渕 でも、あの一瞬で、いろいろなことを考ましたね。自分も、まじで終わったと思いましたもん。やっば!って。俺が思い出さな進まん。それか、このパートをごっそり抜いてしまうか、とか。いやいや、そんなことしたらネタがめっちゃ短かなるなみたいな。

――そんな風に考えられるくらい長く感じたというか。

田渕 めっちゃ長く感じました。

――でも、なんとか立て直しましたよね。

田渕 じつは、相方にあとで言われたんですけど、僕、その後も1つ飛ばしてたらしいです。そこはマジで記憶ないんですけど……。

「おっさん彼女」は準決勝まで隠し続けたネタだった
――決勝で見せた「おっさん彼女」のネタは準決勝が初披露だったんですよね。やっぱり隠しておきたいものなんですか。

きむ ネタバレがちょっと……。

――予選でも何度も通っているお客さんがいるから、そのお客さんにばれたくない、ということですね。

田渕 はい。ばれてると、露骨にウケないんで。あかん、反応弱い、って。ネタ振りの段階でザワッとして、ああ、知ってるんやな、みたいなね。そうなるときついですね。

きむ ネタバレしてると、テンションも下がってまうんで。なので、隠して、隠して。

3分のネタを“決勝用”4分にする難しさ
――「おっさん彼女」を準決でかけたということは、昨年は、あれが一番の勝負ネタだったということですか。

田渕 もちろん。ただね、3回戦でやった「おっさん赤ちゃん」のネタを4分に拡大できたら(2、3回戦の制限時間は3分)、準決勝はそっちでいってたかもしれませんね。

――なるほど。準々決勝以降、制限時間は4分に延びますからね。3分で終わらせてしまうのは、もったいない。おっさん赤ちゃんの「いないいないバー」のところは何度見ても笑っちゃいますもんね。

田渕 決勝終わったあと、いろんな人に言われたんですよ。なんで「おっさん赤ちゃん」やらんかったん? って。あっちのネタの方が強いと思うけどな、と。僕らもめっちゃ好きなネタなんですよ。だから、なんとかしようと思って、薄~くなら伸ばせたんですけどね。ウケるところとウケへんところの差が大き過ぎて。それやったら伸ばす意味ないじゃないですか。それで3回戦に当てたんです。

――3分のネタを4分にするっていうのは簡単なことじゃないんですね。

田渕 4分と言わずとも、3分40秒ぐらいまで伸ばせたらええんですけどね。ほんまいろいろ試したんですけど、なかなかうまくいかなかったんですよね……。

本番でネタを飛ばした経験はあった?
――これまで本番でネタを飛ばしてしまったという経験はあったんですか。

田渕 基本的にはないですね。

――客観的に見ると、飛ばしたといっても、ほんの一部だけじゃないですかとも思うのですが。

田渕 飛ばした部分の長さじゃなくて、飛ばしてしまったという事実なんですよね、でかいのは。セリフ1つ飛ばしただけで、自分の中のテンポってめっちゃ狂ってまうんですよ。

――確かに普段と比べると、言葉が通りにくいというか、少し早口になってしまっているような気はしました。

田渕 どうなんでしょうね。もう、ほとんど何も覚えてないんで。

――反射でしゃべっていたんですか。

田渕 頭で考えてはしゃべってないですね。身体が覚えてくれてたんだと思います。

今田さんとのトークでも切り替えられなかった
――きむさんはその後、落ち着きを取り戻されたのですか。

きむ まあ、始まる前からたぶっちゃんがかかってたんで、僕は抑え気味にいってはいるんですけど。あと、あれもあったんちゃうかって言われるんです。僕、いつも楽しく、笑いながらやってるのに、松本さんの笑ってるツッコミは好きじゃないという言葉で、ちょっと笑えなくなっちゃって。それでたぶっちゃんが飛んじゃったのかなって。

田渕 いや、そこは意識してなかったと思うで。ずっとやってきたスタイルを、そんなに簡単に変えられんやろ。

――ネタを終えて、得点発表の前に司会の今田耕司さんと話をしなければならないのも、あれはあれで大変ですよね。

田渕 すごいシステムを思いつきましたよね。ネタ終わったら、みんな一瞬で袖にはけたいという気持ちだと思いますよ。

きむ ウケたという手応えがあれば、ぜんぜんいいんですけど。ウーンというときは、聞かれても切り替えれないですよね。

田渕 僕らは、ボーンってウケた場面が全然なかったんで。中笑い、中笑いみたいな感じになってもうたんで。

――そのショックが顔に出てしまう?

田渕 隠し切れなかったですね。

文春

史上最高と言われる2019年のM-1。何が神回を作ったのか。出演した漫才師たちへの連続インタビューで解き明かしていく。

全国的に無名だったミルクボーイが史上最高得点で初優勝。鮮烈なインパクトを残した一方、過去3度の準優勝という記録を持つ和牛が4位に終わり、大会後に「M-1卒業」を発表した。打ち上げで和牛と一緒になったというインディアンスが明かすM-1の舞台裏。

M-1の魔力「決勝が漫才師にとってのすべて」
――準決勝がいちばん緊張するという方もいらっしゃいますが、お2人は、決勝の方が緊張されましたか。

田渕 準決勝も、やばいっすね。ほんま。だって、あそこで決まるんですもんね。決勝でられるか、でれへんか。テンション上がってるのと緊張で、いつも息が持たないんですよ。去年も、ステージをはけた後、倒れ込みそうになりました。ネタ中、普段通り呼吸できてないんですよ。

きむ ただ、準決は順番は決まってるんで。そのやりやすさは、決勝終わってから気づきましたね。

――緊張の種類が違うわけですね。

田渕 予選と決勝は、完全に別物ですね。

きむ あと、終わって思ったんは、M‐1にあこがれ過ぎてたのかもしれんな、って。

田渕 決勝に出て、爪痕を残す。それが漫才師にとってのすべてだと思わせる力があるんですよ、M‐1って。でも、その夢に飲まれるとよくない。どうでもええんやぐらいの気持ちでいいんかも。そこはマジで勉強になりました。

2本目のミルクさんを「待ってました感」
――出番を終えたあと、最終決戦の3本も観られるような気分ではなかったですか。

田渕 いや、楽屋のモニターで見てましたね。

――3組ともあれだけウケるということも、なかなかないですよね。

田渕 確かにどうなるんやろと思いましたけど、1本目のミルクさんのはまり方と、2本目のミルクさんを「待ってました感」で、ああ、優勝はミルクさんやなというのは、みんな頭に浮かんだと思いますね。完璧やんって。

――M‐1は栄光と挫折の対比が、ものすごいですよね。

田渕 勝ったら一撃でしんどかったときのこと、全部どうでもよくなると思うんですよね。それって、めっちゃ気持ちええんやろなと思って。M‐1しかないですもんね。そんな舞台は。

「打ち上げで水田さんがめっちゃホッとしてはった」
――きむさんは、後番組なども含め、テレビの収録等が全部終わったあと、からし蓮根の伊織さんと飲みに行かれたんですよね?

きむ あと、すゑひろがりずの南條(庄助)さんもいました。

――田渕さんは?

田渕 僕は和牛の水田(信二)さんと、見取り図の盛山(晋太郎)さんと、からし蓮根の青空と飲みにいきました。

――どんな話をされたんですか?

田渕 いちばん印象的やったんは、水田さんが、めっちゃホッとしてはったことですかね。その席で、じつはM‐1は今年でラストにしようと思ってたという話をされていて。戦士の休息じゃないですけど、もう、なんか優しい顔になられてて。水田さんの優しい顔を久しぶりに見ましたね。「おまえら来年からまた頑張れよ」みたいなことを言ってくれたんは、めちゃくちゃうれしかったですね。この人に言ってもらえたら、なんか頑張れるなあというか。

「一度解散して、ミキの昴生さんとコンビを組んでいた」
――結成は2009年なので、あと5回チャンスがあるわけですね。

田渕 僕らはそうですね。

――お2人は2010年に一度、3、4カ月の間、解散していた時期があります。

田渕 きむはめちゃくちゃ変わったやつなんです。ケンカっぱやいところもあるし。なので、ずっと一緒におるのはしんどいなと思い始めたときに、当時、別の人とコンビを組んでいたミキの昴生さんに「俺とやらへん」って誘ってもらって。昴生さんのこと、ずっとおもしろいと思ってたんで、その日のうちにきむに昴生さんと組みたいから解散してくれって言ったんです。もう解散しようと思ってたから、まったく迷いはなかったですね。

――きむさんは抵抗しなかったんですか?

きむ 予感はあったんで。ただ、翌朝かな、昴生さんに電話して、「なんばhatch」って、いつも僕らがネタ合わせに使ってるライブハウスに来てもらって、話はしました。僕のイメージでは、昴生さんがたぶっちゃんをたぶらかして……みたいに思ってたんで。悪女にだまされた、と。なんで、「何やってくれてんですか!」みたいなことは言いました。

田渕 昴生さんが後で言ってましたけど、きむの拳がずっとプルプル震えてたらしいです。

解散して、なぜまた再結成した?
――そこまでになったコンビが、なぜ、また再結成にいたったのですか。

田渕 翌日から、毎日のようにきむがメールを送ってくるんですよ。こんなネタ書いてみた、とか。びっくりしましたよ。こんなすぐ、しかも、こんな頻度で送ってくるか?って。こっちは組み直そうなんて、微塵も思ってないのに。無視してたら、そのうちこなくなるだろうなと思ってたんですけど、結局、ずっとメールはきてましたね。

――でも、田渕さんと昴生さんが組んだら、超強力ですよね。

田渕 ウケは悪くなかったんですけど、二人とも前に出たがる性格なんで、キャラがぶつかっちゃうんですよ。お互い若いから、引く技術もないし。そんなんで、このまま続けていってもいいのかなと思い始めて。その間もずっときむからはメールがきてて。そんで、こんだけメールくれるやつもおらんかと思って、昴生さんに、やっぱりきむとまたやり直しますって言ったんです。昴生さんは、すっごい男気のある方なんで、わかったって、納得してくれました。

それからも何回も解散を考えたけど……
――その経験があるから、いま、ここにいるわけですね。

田渕 正直言うと、戻ってからも、何回も解散を考えたことあるんですよ。一度解散したとき、きむもましになってるやろなという幻想を抱いてしまって。でも数カ月で人間なんて変わらないですからね。やっぱりしんどくなって、明日のネタ合わせのとき、解散を切り出そうかなとか。まあ、それを乗り越えて今にいたってるわけですけどね。

――M-1決勝の翌日は、どうされていたんですか。

田渕 渋谷の「ヨシモト∞ホール」というところでネタ合わせをしてました。僕ら、毎日、ネタ合わせしてるんですよ。きむが毎日、連絡くれるんで。だから決勝翌日も、何時に劇場集まろうぜ、って。OK、OKと。新しいアイディアなんて、なんも出てないんですけど。でも、集まってなんかしゃべるだけでも、まあ、ええかなって。そうやって、どんなときでもネタ合わせをできるのはきむのお陰ですね。

 

インディアンス/田渕章裕(ボケ担当)ときむ(ツッコミ担当)のコンビ。田渕は1985年6月2日兵庫県出身。きむは1987年12月24日大阪府出身。大阪NSC31期の同期生。

2009年に結成。2010年、一度解散したことがあり、田渕は現ミキの昂生と「やぶれかぶれ」というコンビを組んでいた。15年、18年NHK上方漫才コンテスト準優勝。16年から拠点を東京に移す。

16年、18年にM-1準決勝進出。19年初のM-1決勝で9位に。

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