2019年M-1・インタビューなぜ“神回”になったか『ニューヨーク』

お笑い芸人さんのヒストリー大好き、不器用な男たちが真剣に戦っている、スポーツも勿論だけどお笑いも充分に感動する!そして笑顔にしてくれる、最高じゃないか!お笑い芸人。

文春

「過去最高って言ってもいいのかもしれないですね。数年前なら誰が出ても優勝していたんじゃないか、というレベルの高さでした」

大会の締めに審査員のダウンタウン松本人志がこう語るほど、2019年のM-1は沸いた。では何がこの“神回”を作ったのか。出場した漫才師たちのインタビューから、その答えに迫っていく。

「最悪や!」――トップバッターのニューヨーク、ツッコミの屋敷裕政が松本の審査コメント中に“噛みつき”、会場は妙な盛り上がりをみせた。一瞬の出来事にハラハラした視聴者も多かったが、裏で出番を待っていた見取り図は「あれでほぐれた」と明かし、すゑひろがりずは「M-1史に残る名言ですよ」と称賛した。

あのとき1番手の2人はどんな想いだったのだろうか?

「最悪や!」発言は本音? 狙った?
――まず、いちばん聞きたいところからうかがいます。ネタ後、審査員の松本(人志)さんに「僕の好みなんですけど、ツッコミの人が笑いながら楽しんでる感じがそんなに好きじゃない」と言われたとき、屋敷さんが「最悪や!」と返し、話題になりました。あれが神回と呼ばれる今大会の起爆剤になったのでは。あれは、思わず本音が出たのか、それとも意図的なものだったのか。どちらなのでしょう。

屋敷 半々ですね。このまま終わったら何もないなと思ったんで、なんか爪痕残さないといけないというのと、本音と。あれで盛り上がったとか言ってくれましたけど、それはたまたまです。大会を盛り上げなきゃなんて、1ミリも思ってませんでした。自分たちを何とかせなということでいっぱいいっぱいだったので。まあ、結果的に、僕がしょげて終わってたら、次の出番の人はやりにくかったと思いますけど(笑)。

――M-1では、極端に点が低かったり、審査員から酷評されたりして、芸人としての価値を傷つけられることを「死人が出た」と表現します。もし、あそこで屋敷さんが黙っていたら、今回はニューヨークがまさに「死人」になっていたかもしれませんね。

屋敷 いちばん忘れられやすいトップ出番で、点数もこのままならおそらくビリで、松本さんにこき下ろされて……あのまま、はけていたらと思うとゾッとしますね。

「やばい、やばい、松本さんがひどいこと言うときの空気やん」
――審査員の講評も、上沼さん、志らくさん、塙さん、巨人師匠までは好評価だったんですよね。ただ、5番目の礼二さんが「屋敷君のちょっとイジワルなツッコミがもっと聞きたかった」と。そこで屋敷さんがいつもと違ってソフトだった、優しかったという情報が加わった。それが松本さんコメントを誘発したようにも見えました。

屋敷 なんか「やばい、やばい、これはやばいぞ」という流れになってましたよね。「これ、松本さんがひどいこと言うときの空気やん」と(笑)。

――そんないつもひどいこと言ってましたっけ?

屋敷 たまにあるんですよ。2017年はトップバッターのゆにばーすのときに「お客さんがよすぎるのかな」とか。ウケてるのに、わざわざ言う? みたいな。2番目のカミナリは、やりにくかったと思いますよ。

――なるほど。

屋敷 なぜかトップにきついんですよ。2018年もトップ出番の見取り図に「そこまでウケてなかったかな」と。ネガティブなことを言うとき、松本さんって、気配でわかるんです。僕らのときも渋い表情で「なんかねぇ……」みたいな入りやったんで「わっ、言われる」と。そうしたら「ツッコミが僕の好みじゃない」。うわ、俺ひとりの責任やないかい、と。そんで思わず「最悪や!」が出ちゃったんです。

嶋佐 まあまあ、それが審査員の仕事ですから(笑)。

「82点しか覚えてないですよ」
――得点発表のときは、1人目の巨人師匠が87点で、2人目の塙さんが91点と、決して悪くなかった。

屋敷 いや、もう82しか覚えてないですよ。

――6番目の松本さんの82点でグサッときたわけですね。松本さんだけ、ひと際、低かったですもんね。

嶋佐 僕、松本さんのこと大好きなんで。ダウンタウンさんを見て、この世界に入って、初めて番組で一緒になれたのに、こういう形になって……。フツーに悲しかったですね。呆然としちゃいました。

屋敷 僕も相方がめっちゃが好きなん知っとったから「(得点見て)うわ、かわいそう」……と。そうしたら、松本さんの矛先が僕に向かってきたんで。いやいや、俺の方がかわいそうやん、と。

――屋敷さんが「最悪や!」と言ったとき、舞台裏の芸人たちは爆笑していたそうですが、その後、放映されたドキュメンタリー『M-1アナザーストーリー』を観ると、みなさんのすごいピリついた様子が映し出されていて……。

屋敷 あれは絶対、編集してます。そんなわけないやん。芸人やったら、絶対、笑いますもん、あそこで。

嶋佐 いろんな方に「ようやった」と褒められましたから。あの編集は、やめて欲しいですね。導入部分で緊張感を持たせたかったのかもしれませんが。

屋敷 言うたな、ABC(朝日放送テレビ)の悪口(笑)。これから先、また、世話になるかもしらんのに。

嶋佐 いや、あの編集はえぐい(笑)。

「今田さんが笑いにしてくれるやろう」
――嶋佐さんは、屋敷さんが「最悪や!」と言った後、一瞬、間があって、一緒に不貞腐れるという方向へ舵を切りました。私は相方として「まあまあ」となだめるかと思ったのですが、あそこはいろいろ考えたのですか。

嶋佐 なんか僕も勝手にああいう感じになりましたね。司会の今田(耕司)さんには「本能Z」(CBCテレビ)という番組にちょくちょく呼んでいただいていて、そこでけっこうイジられてたんです。僕らは、それに噛みつくみたいな。なので僕らが失礼なことを言ったり、どんだけ不貞腐れても、今田さんが笑いにしてくれるやろうという安心感があった。その信頼感がなければ、あそこまで悪態をつき続けることはできなかったと思います。

――ずっと不貞腐れていましたもんね。

屋敷 1分でも、1秒でも長くここに居座ってやろうと思ってましたから(笑)。

嶋佐 居座りボケですから。居座ってなんぼじゃないですか。

屋敷 タイミング的には2回ぐらい、ここではけてくださいみたいな雰囲気になったんですよ。それでも俺らは動かなかった。極端な話、番組が終わるまで、ここにおるからなぐらいの気持ちでしたね。ここではけたら、俺ら、もう2度と、ここに戻ってこられへんと思うてましたから。少なくとも、今回は、2本目はないと。

嶋佐 最後に、今田さんに「いつまでおるんや」って言われて、はけさせられたんですけど。ああ言っていただけて、本当に助かりました。

屋敷 もうちょっと、おってもよかったかもな。

嶋佐 本音を言えば、あと1分くらい粘りたかったですね。

史上最高と言われる2019年のM-1。なぜあれほどの“神回”になったのか。出場した漫才師の連続インタビューでその答えに迫っていく。

トップバッターで会場を盛り上げたニューヨーク。じつは2017年王者のとろサーモン・久保田かずのぶから「1番に楽屋に入れ」とアドバイスを受けていた。当日、1時間前に楽屋についた嶋佐和也だったが、そこにはすでに先客がいた……。

1時間前にテレ朝入りしたが、そこにいたのは……
――当日は14時までに楽屋に入ればよかったそうですが、お2人は何時ごろに入ったのですか。

屋敷 僕はギリでしたね。

嶋佐 僕は1時間ぐらい前に入ってました。

――早いですね。

嶋佐 普段、とろサーモンの久保田さんによくしてもらっているんですけど、「おまえに、ええこと、こっそり教えたるわ」と言われて。

屋敷 何を教えてくれたの?

嶋佐 「誰よりも先に楽屋へ入れ」って。「M-1は1番先に楽屋入りしたやつが結果出してんねん」と。あの人、ジンクスとか、めちゃくちゃ気にするんですよ。スピリチュアルな世界も大好きですし。僕はそういうの気にしないんですけど、今回ばかりはあやかろうと思って1時間前に行ったんです。そしたら、先着がいたんです。

屋敷 誰?

嶋佐 ミルクボーイさんだったんです。もう座ってて。

屋敷 当たっとるやん!(笑)

――確かにミルクボーイのお2人は、この連載インタビューでも1時くらいに楽屋入りしたと言っていました。タッチの差だったんでしょうね。

屋敷 じゃあ、今度、決勝に行けたら、俺、めちゃくちゃ早く行くわ。久保田さんも、優勝したとき、一番乗りやったということやろ。

嶋佐 だったんですかね。

屋敷 そこ、聞いとけや!(笑)

――初めて体験する本番前の楽屋の雰囲気は、いかがでしたか?

「M-1あるある」見つけました
嶋佐 緊張感もありつつ、普段の感じもありつつ。

屋敷 リハーサル以外、やることないんよな、あんまり。

――時間を持て余してしまうわけですね。

屋敷 メイクの呼び出しが、ものすごく早いんです。15時ぐらいから「メイク、行ける方からお願いします」って言われて。

――本番の約4時間前ですね。それは相当、早いわけですね。

屋敷 メイクって、できるだけ直前にしたいんですよ。化粧が服についたりするし、いちばんいい状態で出たいじゃないですか。長丁場だと、番組後半には、だいぶメイクが崩れてきちゃいますし。

嶋佐 だからみんな、スタッフさん無視。

屋敷 たぶん、審査員の方々のメイクとかもあるから、スタッフサイドとしては、なるべく若い人から先にやっておいて、オンエア前の時間帯は空けときたかったんだと思います。でも、僕らからしたらあまりにも早過ぎたので、そこはせめぎ合いでしたね。「メイクお願いします」って言われたら、いちおう「はーい、わかりましたー」って感じで、視線を合わせて、ちょっとだけ頭だけ下げる。で、無視みたいな。

嶋佐 いつも、あんな感じなんでしょうね。これ、M-1あるあるだと思いました。

屋敷 結局、からし蓮根とか、若い順に籠絡されていって、僕らはかなり最後の方まで粘ってましたね。

衣装も駅も楽屋も……M-1のためのゲン担ぎ
――予選から決勝まで、嶋佐さんは白いジャケットとベージュのパンツで通していましたが、屋敷さんはけっこう変えられていた印象があります。

嶋佐 僕は衣装も久保田さんに相談して、「明るい色の方がいい」と言われたので。

屋敷 僕は全部、変えたんです。1回戦から3回戦まで、たまたま衣装を変えていて、そうしたら通ったんで、そっから先も変えな落ちるような気がして。

――ずっと変えないというのはよくありますけど、ある意味、逆のゲン担ぎですね。

嶋佐 去年は、今まででいちばんそういうことをしちゃったな。

屋敷 そうそう。準々決勝と準決勝の会場はニューピアホール(竹芝)だったんですけど、僕ら、あんまり相性がよくないんです。なので、降りる駅を変えてみたり。いつもは浜松町を使っていたんですけど、今回は大門で降りようと。準決勝の楽屋も2つあって、いつも手前の楽屋を使って落ちていたので、今回は奥の部屋を使おうと。全部、逆、逆と。

嶋佐 10年目だったからな。そう言うものに、いちばんすがったな。

――スタジオ入りしてからは、さすがに雰囲気が変わりましたか。オンエアが始まっても、なかなかギリギリまで入らせてもらえないらしいですね。

「トップで優勝なんてできないじゃないですか」
屋敷 めちゃめちゃギリです。最初の笑神籤(えみくじ)を引く直前くらい。僕ら、スタジオに入って、5分後にはもうネタしてた感じですもん。舞台裏の椅子に座ったときは、めちゃくちゃ緊張してきましたけど、いきなり1番目に名前を呼ばれて、すっと冷めました。

――冷めるんですか。

嶋佐 せり上がりのとき、思わず、「これは無理だな」ってつぶやいちゃいましたもん。普通に考えたら、トップで優勝なんてできないじゃないですか。

屋敷 あきらめましたね、優勝は。ネタ的にも厳しいな、と。

――今回お2人は、歌ネタでした。嶋佐さんが作詞作曲したというラブソングに、屋敷さんが突っ込んでいくという。ネタとしては変化球なのでトップバッターより、オーソドックスな形の漫才が続いたあとの順番のほうが効果があるわけですよね。

屋敷 なので、決勝進出が決まってから、トップを引いたとき用のネタを準備しておこうかとも思ったんです。1番目はそれくらい難しいので。でも最終的には、何番を引いてもこのネタでいこうとなったんですけど。

嶋佐 このネタで、初めて決勝にいけたので。これをやらなきゃ悔いが残るだろうと。

――歌ネタは準決勝が初披露でしたが、そこまで温存していたわけですか。

屋敷 いや、迷っていただけです。僕らっぽいネタではないので、イチかバチかになるなと。でも今までやってきたようなネタだと、それでずっと落ちてきたわけですから何も変わらないかな、というのもあって……大爆発にかけて準決勝で初めてかけたんですけど、普通にウケたくらいでしたね。

史上最高と言われる2019年のM-1。なぜあれほどの“神回”になったのか。出場した漫才師の連続インタビューでその答えに迫っていく。

トップバッターで歌ネタを披露したニューヨーク。「マッチングアプリが一番出会える」「PVのときの米津玄師みたい」など印象的なフレーズがあるが、じつはダウンタウンの浜ちゃんが出てくるボケのくだりを変更していたという。その理由とは?

なぜM-1決勝だけツッコミのセリフを変更したか?
――屋敷さんが立つ側からは、審査員が目に入るので、芸人さんの中には気にされる方もいますが。

屋敷 冷静だったんで、よく見えました。審査員の体の動きが小さかったので、あんまり笑ってないんやろなとか思いながらやってましたね。別に気にはしていませんでしたけど。

――審査員の礼二さんが屋敷さんの「イジワルなツッコミ」をもっと見たかったと言ったように、少しネタ中のセリフを変更したわけですよね。

屋敷 変えましたね。

――決勝ネタは、準決勝のときのネタと同じでしたが、準決勝のときもすでに変更していたのですか。

屋敷 いや、あのときは変えてません。決勝の数日前に過去のM-1を観ていて、変えた方がええんかなと思ったんで。

――過去、少なからず、言葉の選択が問題になったことがありました。たとえば、2018年は、ゆにばーすが「へどが出るわ!」と言って、オール巨人師匠に汚い言葉やから使わない方がいいとたしなめられました。ただ、ニューヨークの場合は、いろんな方が、なぜ変えたのかと疑問を持たれているようでした。

屋敷 まあ、結果論でしょうけど、全部。そら、最下位とったら、みんな言うでしょう。もし僕らが優勝していたら、変えたのが正解だったと言っていたと思いますよ。

――どなたかが、屋敷さんの「よだれ出して喜ぶわ」というツッコミが削られていたと話していましたが、もとはどの部分に入っていたのですか。

屋敷 「女子は、ラインが既読ならないとか(いう歌詞)に大喜びするから」というところですね。

――「よだれ出して喜ぶわ」の方が、確かにインパクトがあります。ただ、そのぶん、リスクもある。

嶋佐  もっとハイになれてたら、そういうセリフでも大爆笑を取れてたと思うんですけどね。

ダウンタウン浜田さんのくだりを削った理由
屋敷 でも、そういうゾーンに入るようなコンビって毎年、全10組のうち半分もいないでしょう。今大会で言えば、かまいたちさん、和牛さん、ミルクボーイさん、ぺこぱさんぐらいじゃないですか。あとは見取り図さんも、ちょっと入ってましたね。でも5組もいたということは、やっぱり神回だったんでしょうね。

――ちなみに、ラブソングのネタで浜ちゃん(浜田雅功)が出てくるくだりも変更したんですよね。

嶋佐 ああ、僕が米津玄師みたいな動きをするボケがあるんですけど、当初、あそこは浜田さんがボーカルをしていたH Jungle with tみたいな動きをしてたんです。でも、松本さんもいるし、寄せたと思われるのもあれかなと。

屋敷 あそこもめっちゃ迷ったな。めちゃウケるところなんですけど。浜ちゃんのボケを出すことで、減点はないにせよ、変な雰囲気になっても嫌だなと。ほんまは、自分たちがおもろいと信じていることを、そのままやればいいんですけどね。少なからず、M-1でこれはどうかなと考えちゃいましたね。

「すゑひろがりずさんを応援していた」
――トップバッターなので、暫定1位の席に座りましたが、2番手のかまいたち(660点)、3番手で敗者復活の和牛(652点)に抜かれ、あっという間に3位まで転落してしまいました。

屋敷 僕らに振られたら、どう噛みつくかしか考えてなかったですね。「(かまいたちの)濱家さんもツッコミながらちょっと笑ってたでしょ」とか。

――松本さん、笑うツッコミは好みじゃないと言っていましたが、そうなんですよね、みんなちょっとは笑ってますよね。そして4番手のすゑひろがりずにも抜かれてしまいました。

屋敷 むしろ、あそこは抜かれてよかった。抜かれる想定でしかコメントを考えていなかったので、ギリ残って振られたら困るなと。なので、すゑひろがりずさんを内心、応援してました。

――去り際も不貞腐れた風を貫かれ、芸人としては、笑いの神様・松本人志に腐されたという絶体絶命のピンチを何とか切り抜けたのではないですか。

嶋佐 そこはね、別によかったということはないですけど、まあ、そのことをいろんな方が触れてくれたんで、ありがたかったです。

――変えるべきところと、変えちゃいけないところ。M-1のお話をうかがっていると、そのバランスが本当に難しいですよね。

屋敷 今までは言葉が直接的過ぎたなという反省があったんです。なので、今回は歌にして、言葉もマイルドにして、初めて準決勝の壁を破った。でも、優しくしたぶん、お客さんに僕らの持ち味が伝わらなくなってしまった部分もある

「それにしても点が低過ぎるな(笑)」
――知り合いは、幼稚園児の娘と見ていたらしいのですが、ニューヨークがいちばん喜んでいたと話していました。「れいせ~い~」って歌いながら、ずっと嶋佐さんの踊りを真似していたそうです。

屋敷 それ、よく言われるんです。友達の姪っ子も、めっちゃ喜んでくれてたみたいで。

嶋佐 SNSとかでも子どもが踊っている動画が流れてたらしいですね。それは嬉しいですね

屋敷 10年やってて初めてですよ。子供に刺さったのは。そこはびっくりしました。それにしても点が低過ぎるな(笑)。

嶋佐 どうにかならないですかね。トップバッターを低めにつける、みたいな傾向。

屋敷 ただ、塙さんは91点やから。7人の審査員の中では最高点。もう、これからは塙さんだけ信じよう。

嶋佐 あとは……ダメだな(笑)。

――でも、毒のある屋敷さんをもっと見たいとあれだけ周りに言われると、今後のM-1は、また考えちゃいますよね。

屋敷 そうなんですよ。なので、それでスベったら、責任取ってくれよとは思ってます(笑)。言った人、みんな覚えているので

史上最高と言われる2019年のM-1。なぜあれほどの“神回”になったのか。出場した漫才師の連続インタビューでその答えに迫っていく。

トップバッターで「最悪や!」発言をし、爪痕を残したニューヨーク。2人が初めて決勝に行って感じたという「M-1ファイナリストだけが見られる意外な光景」とは

「本番中に上戸彩さんを見られたやつはいない」
――この前、初めて聞いたのですが、賞レースのときは、先輩でもあいさつしなくていいという暗黙の了解事項があるのですか。

屋敷 楽屋は一緒ですからね。出場者同士は会ったら、自然と、あいさつはしますよ。ただ、審査員の方にはあいさつはしませんね。みなさん大先輩なので、楽屋へ行って「今日はよろしくお願いします」って言った方がええんでしょうけど、そういうのは一切ありませんでした。そこは通常のバラエティ番組とは違うところですね。

――共演者ではなく、あくまで審査員という位置付けなわけですね。

屋敷 ただ、MCの上戸彩さんだけ、楽屋にあいさつに来てくれました。でも、本番中、上戸彩さんの姿を確認できたというやつは、ほとんどいませんでしたね。今田さんと審査員の方々しか目に入ってこない。だから、せめてエンディングのときくらいは上戸彩さんを見よう、って。ミルクボーイさんにおめでとうを言うより、上戸彩さんのことが気になってました。次、いつ見られるかわからないですから。

嶋佐 からし蓮根の伊織が言ってましたね。上戸彩さんのこと、エンディングでちゃんと見ておきましょうよ、って。

屋敷 だから僕、エンディングのときは上戸彩さんに1番近いところに陣取って、背中をずっと見てました。背中も美しかったです。今度は上戸彩さんとしゃべりたいな。審査員とか、今田さんじゃなくて(笑)。

嶋佐 それ、ありかな。

――収録が全部終ったあとは、みなさんそれぞれに飲み直したりしていたようですね。

「僕はさらば青春の光の森田さん家へ行きました」
嶋佐  僕はオズワルドの伊藤君に飲みましょうって言われたので、俺ん家で飲むか、と。コンビニで2、3缶ずつ買って帰ったんですけど、1本目の半分くらい飲んだらぐったり来ちゃって。その前にさんざん飲んでいたんで。もう飲めないなって言って、40分ぐらいで帰ってもらいました。

屋敷 僕はさらば青春の光の森田さん家へ行きました。森田さんは、トレンディエンジェルのたかしさんと何人かでM-1を観てたらしいんですよ。ちょっと来たらと言われて行きましたけど、ちょっとだけ居て、すぐ帰りました。

――少し時間が経ちましたが、決勝の舞台は、どんなものでしたか。

屋敷 もっと味わいたかったですね。一瞬で終わっちゃったんで。

嶋佐 最速で終わっちゃったんで。

屋敷 今思えば、M-1は、決勝進出を決めた瞬間がピークやったな。

LINEに100件くらいのメッセージ
――発表のときは、2人とも号泣していたそうですね。

嶋佐 ここ数年、準々決勝か準決勝でずっと負けてたんで。ずっとお世話になっていた囲碁将棋さんとダイタクさんに「おめでとう」って言ってもらった瞬間に……。

屋敷 一気に泣けてきました。

嶋佐 びっくりしたんですけど、涙がボロボロ出てきて。

屋敷 発表のあと、取材とかラジオの収録があるんで、会場からタクシーでテレビ局に移動するんですよ。各コンビにディレクターが1人ついてくれて。タクシーの中で、初めて携帯をいじれるんですけど、LINEに100件くらいメッセージが入っていました。

嶋佐 1番うれしい瞬間だったな。これまで仕事でお世話になった人とか、芸人仲間とか、地元の友達が送ってくれたお祝いコメントを1件1件見つつ。やっぱりM-1ってすごいんだと思いました。

叙々苑弁当が死ぬほど置いてあって……
屋敷 テレビ局に到着すると、真っ白な控室に叙々苑弁当が死ぬほど置いてあって、飲み物もめちゃくちゃあって。これがファイナリストだけが見られる光景なんや、と。

嶋佐 もう、夜中だったけどな。あんときが一番テンション上がってた気がします。決勝決まると、こんな世界が待ってるんだって。その日、仕事が全部終ったあとは、見取り図の盛山さんと、からし蓮根の青空君と、インディアンスの田渕さんの4人で飲みにいって。その飲みも楽しかったなー。人生で、いちばんの飲みだったかもしれない。俺、決勝行けるんだ、最高だなみたいな。

屋敷 次の日から、ネタどうしよ、ってめっちゃ悩んでましたけど。

嶋佐 確かに。

――M-1はやはり芸人の人生を変えてくれる舞台なわけですね。

屋敷 ただ、1つ、言わせてもらってもいいですか。準決勝のライブビューイング、全国、あれだけの会場でやって、しかも大盛況やったらしいんです。

嶋佐 あの金は、僕らにもちゃんと入ってくるのか。

屋敷 入ってこんやろ。入ってきてなかったもん。

嶋佐 ライブビューイングのぶん、ゼロ? やばいな。どこに行ったんだ、あれ。

屋敷 吉本はM-1で稼ぎ過ぎやろうという問題があるんですよ。

M-1準決勝までは0円、決勝のテレビギャラは……
――でも、M-1はあくまで大会で、自らエントリー料を払って出場しているので、出演料がないのが当然なんじゃないですか。「出演者」ではなく「出場者」なわけですから。その認識は間違っていますか。

屋敷 決勝はテレビギャラが入っていました。4万円かな。本番後の打ち上げの様子もギャオで配信されたので、そのぶんのギャラも2万円くらい入ってましたね。ただ、準決勝までは1円も入ってません。

――やはり、そういうもんなんですね。

嶋佐 問題ありだな、ライブビューイングは(笑)。

――M-1への感謝で締めるのではなく、最後も、そうやって噛みつく。そこが2人の魅力ですね。

屋敷 断トツのビリで、真面目にM-1のこと振り返ったら、カッコ悪いじゃないですか。

嶋佐 そら、こうなりますよ。

――でも、もともと他のコンビとは少し温度差がありますよね。

嶋佐 M-1にすべてをかけます、みたいなことは、あんまり言いたくない。M-1の前に芸人なんで。ヘラヘラしてたくてやってるんで。

 

ニューヨーク/嶋佐和也(ボケ担当)と屋敷裕政(ツッコミ担当)のコンビ。嶋佐は1986年5月14日山梨県出身。屋敷は1986年3月1日三重県出身。東京NSC15期生で2010年結成。

M-1では2015年、18年に準々決勝、16年、17年に準決勝進出。19年に初の決勝で10位に。

YouTubeでニューヨーク Official Channel更新中(https://www.youtube.com/channel/UCS17iKEInkBuHkxtEcCnTTQ)

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