お笑い芸人さんのヒストリー大好き、不器用な男たちが真剣に戦っている、スポーツも勿論だけどお笑いも充分に感動する!そして笑顔にしてくれる、最高じゃないか!お笑い芸人。
「過去最高って言ってもいいのかもしれないですね。数年前なら誰が出ても優勝していたんじゃないか、というレベルの高さでした」
大会の締めに審査員のダウンタウン松本人志がこう語るほど、2019年のM-1は沸いた。では何がこの“神回”を作ったのか。出場した漫才師たちのインタビューから、その答えに迫っていく。
衝撃の「ノリツッコまないボケ」で“まさかの大逆転劇”を演じたぺこぱ。10番目まで出番を待ち続けた彼らは、決勝当日何を感じていたのだろうか?
「インディアンスの後はやりにくいな……」
――M-1決勝、ラスト出番の10番目でした。待つの、疲れませんでしたか?松陰寺 正直、めちゃくちゃ疲れました。本番前、僕らの師匠でもある事務所の先輩のTAIGAさんに呼び出されて、「賞レースで失敗しないためのノウハウを教える飲み会」を開催してもらったんです。その席で、2つのことを言われて。1つは「爪痕をちょっとでも残せればいいやみたいな弱気な思考は捨てろ」と。絶対、優勝するつもりで行けと言われました。もう1つは「何番目でも前向きに行けるよう常に準備をしとけ」と。なので、何番目がいいとか考えずに、来たところで行くぞと思ってました。クジが引かれるたび、相方に「よし、次、行くぞ」って声をかけて、よし来い、よし来いって待ってたんです。結局、それをトータルで9回やったんで……。
――最後、インディアンスとぺこぱの2組が残りましたけど、タイプ的にインディアンスの後がいいと言う人もいるし、やりにくいという人もいますが。
松陰寺 僕はやりにくいなと思ってましたね。めちゃくちゃウケているのを何度も見てるので。だから、先に来いって思ってました。
――9組目のときは、ラグビー日本代表の稲垣(啓太)選手が笑神籤(えみくじ)を引いていたのですが、名前が書いてある棒を落としかけて。テレビだと「ンス」と最後の2文字が見えていました。あれはモニターでもわかったのですか?
松陰寺 いや、僕には、その「ンス」が「こぱ」に見えて。もう立ち上がって、いく準備もしていましたから。そうしたら、あれっ……と。ラストかと、力が抜けちゃいました。
「うわー、最後か……」
――演者の方々の多くが本気で笑神籤はヤラセなのではないかと疑っていたようですが、お2人も疑っていましたか。松陰寺 そういう噂は聞いていたので、どうなんだろうなと思っていましたが、今回から半透明になりましたよね。あれを見て、それはないなと思いました。
――同じコンビの名前を書いたものだけを入れた箱がいくつかあるみたいな噂があったそうですが、透けていたら、全部同じ名前なのがばれてしまいますもんね。
松陰寺 ええ、M-1はガチです。
――ぺこぱにとって、前の9組がいい「振り」になったと分析しているコンビがけっこういました。つまり、そこまでは関西弁の、割と強い言葉の漫才が多かったので、最後、関東弁で「やさしい漫才」と評されたぺこぱのネタがより際立ったのではないか、と。
松陰寺 そのときは、まったく思わなかったですね。後になって、そうだったのかなとは思いましたけど。順番が違ったら、また違う結果になっていたでしょうね。
実際は「うわー、最後か」って感じでした。ただ、もうやるしかなかったし、10番目は唯一、クジを引く前に出番がわかるので、そのぶん心の準備はできた。待ち疲れしていたこともあって、ぜんぜん緊張はしてませんでした。
他のコンビの出番中はネタ合わせをしていた?
――お2人は他のコンビの出番中、ネタ合わせなどはしていたのですか。松陰寺 ほとんどしなかったですね。気持ちを落ち着かせるために、CM中にちょっとやったくらいで。何十回、何百回とやってるネタですし。
――みなさんに聞くと、舞台裏の席にずっと座っているのは割と苦痛のようですね。
松陰寺 僕はけっこうトイレとかに行ってましたね。シュウペイはずっと座ってた気がするけど。
シュウペイ 水飲んでましたね。
――これまで話を聞いた芸人さんのなかには、他のコンビがウケているのを見たくないという理由で、席を外したという方もいました。
シュウペイ ほお~。
(一同爆笑)――2組目のかまいたちが大爆笑をさらって、660点という高得点を出したときもずっと席にいらっしゃったんですね。
シュウペイ 「これ、どうすんの?」って空気になってましたね。その後、敗者復活から上がってきた和牛さんがまた高得点(652点)を出して、さらに盛り上がって。「あれ、もうM-1終わり?」って。パッと横を見たらオズワルドと目が合って、互いに、うわ……みたいな。
「ミルクボーイさんは、噂で聞いていたので1位予想!」
――7組目のミルクボーイも舞台裏のモニターで観てたんですね。シュウペイ はい、観てました。なんだろうな、今まで見てきた漫才の中で、いちばんおもしろいネタを見たという感じでしたね。うわっ、この人たちめちゃくちゃ面白いって。
――予選では見ていなかったのですか。
シュウペイ 予選は見てません。もったいないというか、決勝までとっておきたいなという気持ちがあって。いちファンとして、普通に楽しんでましたね。3連単予想とかもやってましたもん。
――どんな予想を立てたのですか。
シュウペイ ミルクボーイさんは、噂で聞いていたので1位。
松陰寺 おまえも出てるんだぞ!
――TAIGAさんのアドバイスがぜんぜん生かされてませんね。
シュウペイ 2位は、やっぱかまいたちさん。3位はインディアンスさんとかが来るのかなとか。ただ、敗者復活で和牛さんがあがってきたら、やっぱり怖い存在になるだろうなとも思っていました。
松陰寺 俺らは何番なの?
シュウペイ いや、いちファンとして客観的に観たら、ぺこぱはまだ新参者だから。何とも読めない。ただ、個人的には、この一角を自分たちが崩せたらおもしろくなるなとは思っていました。
――なるほど。松陰寺さんは、ミルクボーイが演じてるときはどこかへ行ってたのですか。
松陰寺 いや、見てましたね。いったい、何回爆発するんだろうと思って、びっくりしながら観てました。正直、これを超えるのは無理だなと。もう半分、あきらめてましたね。自分たちのネタの強いところも、弱いところも、もうわかっていましたから。両方のネタを比較したとき、こら、どうやっても勝てんな、と。
史上最高と言われる2019年のM-1。なぜあれほどの“神回”になったのか。出場した漫才師の連続インタビューでその答えに迫っていく。
じつは決勝に出場した10組のなかで、吉本所属ではないのはぺこぱだけだった。唯一の“非吉本芸人”は楽屋で何を感じ、そして大舞台に向かったのか。
「濱家さんとか、怖かったですもん」
――今回、決勝の舞台を踏んだコンビの中では唯一、「非吉本」でした。楽屋とか、アウェイ感があるものですか。松陰寺 僕ら、めちゃくちゃ浮いてました。吉本の芸人さんって、すぐ会話の中に「NGK(なんばグランド花月)」とか「ルミネ(ルミネtheよしもと)」って出てくるじゃないですか。そうすると、僕らはもう入れないです。孤独でしたね。ほんとに。
かまいたちの濱家(隆一)さんとか、怖かったですもん。マスクして、ひと言もしゃべらないんですよ。めちゃくちゃ雰囲気ある人だなと思って。楽屋で僕の隣だったんですけど、机と机が接してるラインから化粧品とか僕の持ち物が飛び出さないよう気を付けてました。濱家さんの領域を侵したら、怒られそうだなと思って。あとで聞いたら、濱家さん、風邪を引いてて声が出なかったらしいですね。唯一、からし蓮根の伊織君とはちょっとしゃべりましたね。プロフィールを見て、圧倒的に後輩なのがわかったんで、たぶんしゃべっても大丈夫だろうと。
――シュウペイさんは?
シュウペイ 僕も伊織君ぐらいですね。なんか、しゃべりかけられないような空気がありましたもん。
シュウペイは「楽屋に5分遅れた」
――他のコンビは「初出場者が多いので、割とリラックスしていた」というような言い方をされていましたが。シュウペイ 初めてなんで、いつもを知らないですからね。
松陰寺 楽屋と言えば、あと、お弁当がおいしかったんですよね。
――それ、みなさんおっしゃいますね。お弁当は何を食べましたか。
松陰寺 カツカレーを食べました。カレーとカツが別々のお皿に入っていて、こんなうまいカレー食べていいんだ、って。
――有名店のカツカレーらしいですね。ちなみに、お2人は何番目ぐらいに楽屋に入ったんですか。
松陰寺 僕はけっこう早かったんですけど、シュウペイはちょっと遅かったよな。
シュウペイ いちばん最後です。
松陰寺 2時までに入らなければいけなかったんですけど、ちょっと過ぎてた。5分ぐらい。さすがです。
「上沼恵美子さんには怒られるだろう」
――出番のときは、まったく緊張しなかったとのことでしたが、お客さんを目の前にしたら、頭が真っ白になったとか、そういうこともありませんでしたか。松陰寺 なかったですね。僕はけっこうキャラを立たせているので、あそこで遠慮してたら終わりだと思ってましたから。M-1という神聖な場所で、化粧をして、頭を逆立てたやつが、カッコつけて自己紹介したら、なんだこいつってなるだろうなとは思っていました。上沼さんには怒られるだろうし、志らくさんも、きっと好きなタイプじゃないだろうと。でもこのスタイルで決勝まで上がってきたんで、もう、思い切りやるしかなかった。一番カッコつけてやろうと思って出ていきました。
――最初の自己紹介のとき、いつも以上に頭を激しく、長く振ってましたもんね。
松陰寺 そこまで意識していたわけではないのですが、相方に聞いたら、ちょっと多めに頭を振ってたみたいですね。
――M-1の会場にいたときは最初の頭を振っているところから大爆笑が起きていたと思っていたのですが、テレビの録画を改めて見直すと、あそこはクスクスぐらいで、またお客さんも「なんなんだ、このコンビは?」と様子を見ている感じでした。
松陰寺 あそこでクスクスなら100点なんです。ウケないときは誰も笑わないので。そうすると僕も乗っていけない。でも、少ないですけど、はっきりと笑ってくれてるなという雰囲気はあったので。決勝は観客席が近いので、笑い声は上げないまでもニヤニヤしているお客さんの顔がはっきり見えましたから。
――で、そのあとシュウペイさんが自己紹介をするときに松陰寺さんの前に出て、それに対し松陰寺さんが「かぶってるなら、おれが避ければいい」でドッカンときました。以降は、あの「ノリ突っ込まないツッコミ」が出るたびに爆笑の渦でした。
シュウペイ かなり早い段階で仕組みを理解してくれてましたね。
松陰寺 よく予選のお客さんは玄人だけど、決勝のお客さんはそこまでコアなファンじゃないと言うじゃないですか。なので、最初の2分くらいはいつもよりゆっくり、丁寧にやることを心掛けたんです。
シュウペイ そのぶん、僕の待ちが長くなるんですけど。
シュウペイは「無」で立ってるのが正解
――プロの方は、シュウペイさんの何もせず待ってる時間が大変だねって、みなさんおっしゃいますね。役者もセリフのないシーンの方が難しいっていいますもんね。シュウペイ そういう風に作ったネタなんで、けっこう大丈夫でした。
松陰寺 ネタ見せとかでは、シュウペイが何もしてないときに僕が何か突っ込んだ方がいいんじゃないかとかも言われたんですけど、正直、正解がわからなくて。シュウペイも「何言ってんだよ」みたいな顔をしていた時期もあるんですけど、結局、今の形が正解なのかな。笑いも起きてるので。「無」で立ってる。
――確かに「無の笑顔」という感じですよね。
シュウペイ このネタは、まず相方のキャラを立たせたいと思っていたので、僕はいかに聞いていられるかというのが技術と言えば技術なんです。それでたどりついたのが今の形ですね。
松陰寺 「いや、ナスじゃねーとは言い切れない、色合いだ。激しいヘタもついてる」ってところ、(頭を)スイングする時間、いちばん長かったな。シュウペイが次のセリフなかなか言わねえなと思って。
シュウペイ 「全国の皆さん、見てください」って。
松陰寺 頭取れるかと思ったけど、シュウペイが言うまでやめられないんで。
シュウペイ 見せ所ですからね。おまえのキャラがわからないみたいによく言われてたんですけど、ないからいいんです、たぶん。なので、待ってる時間は苦痛でもなんでもなかったです。
松陰寺 存在が消え過ぎて、逆に目立ってるけどな。
史上最高と言われる2019年のM-1。なぜあれほどの“神回”になったのか。出場した漫才師の連続インタビューでその答えに迫っていく。
「かぶってるなら俺が避ければいい」「もう誰かのせいにするのはやめにしよう」……“ノリツッコまないボケ”で、大逆転劇を演じたぺこぱ。なかでも「キャラ芸人になるしかなかったんだ!」は初見なのになぜかグッときた。M-1のネタについて深掘りしていく。
M-1スタッフの知られざる「プロの仕事」
――ぺこぱの漫才は非常に動きが大きいですけれど、マイクが音を拾ってくれないのではという不安はないのですか。松陰寺 マイクを離れても、フットマイクがあるし、ガンマイクも追いかけてくれていたので。
――それなら、安心ですか。
松陰寺 ただ、「右だって言ってんのに、なんで3回も左に曲がると……右になってる」っていうところで、僕が完全に後ろを向いてしまうシーンがあるんです。そこは、どうしてもマイクで拾ってもらえなくて。予選でも、そこだけ声が聞こえなくなったりしてたんです。なので、決勝はあのシーンは削ろうかとも思ったんですけど、ウケるところなのでもったいないな、と。でもオンエアを見たら、ちゃんと聞こえてて。僕が後ろを向いた瞬間、ミキサーの人が音を上げてくれたんじゃないですかね。僕らのネタを知っててくれて「向くぞ、向くぞ、今だ」って。
――だとしたら、プロの仕事ですね。
松陰寺 勘違いかもしれませんけど、心なしか、後ろ向いたときだけノイズの音も大きくなってる気がするんですよね。
「キャラ芸人にしかなるしかなかったんだ!」はなぜウケたのか
――ぺこぱのネタは、おもしろいだけでなく、どこか哀愁が漂っていますよね。シュウペイさんに「うるせー、キャラ芸人!」って言われて、松陰寺さんが「キャラ芸人になるしかなかったんだ!」って叫ぶところ、なぜかグッとくるんですよ。お笑いにはマイナスかもしれませんが、苦労してきたんだなって。涙笑いになりかける。松陰寺 それ、よく言われます。哀愁出そうなんて、微塵も思ってないんですけど。
――オードリーの若林正恭さんがラジオで2人のネタを聞いてて泣きそうになったと話していましたが、なんかわかります。
松陰寺 ただ、「キャラ芸人になるしかなかったんだ!」っていうセリフは、実人生とかぶっているところもあるんですけど、それは今日初めて見たという人にはわからないじゃないですか。僕らの歴史を知ってる人なら、笑ってくれるかもしれないけど。
――松陰寺さんがかつて、着物を着ていたとか、ローラースケートをはいていたとか、そういうことを知らなくても、なんとなく名残はありますよ。お化粧もされてますし。
松陰寺 確かに、あのセリフはどこでやっても、不思議とウケたんですよね。
――M-1の1本目は、相当手応えあったんじゃないですか。
松陰寺 ありましたね。ただ、一番最後の「急に正面が変わったのか?」というところは、ライブではウケないこともあったんです。
――観客席から見て左側、いわゆる舞台の「下手」をシュウペイさんが向いて立つところですね。
松陰寺 M-1の予選で初めてウケたんです。会場も広いですし、お客さんも通な方が多いので。でも、決勝はどうかな、と。そこはいちばん不安でした。
――でも、あそこも大爆発でした。
松陰寺 そうですね。ホッとしました。
上沼さんの“96点”で「完全にキャラを忘れちゃった」
――得点はオール巨人師匠から始まって「93」「94」「91」「94」「92」「94」「96」と非常に高得点でした。最後の上沼さんが96点を付けましたしね。ただ、一瞬で計算できないので、順位はすぐにはわかりませんでした。それでも松陰寺さんは、腕を突き上げていましたね。松陰寺 松本さんの94点と、上沼さんの96点で「いったか?」と。ぜんぜんわからなかったですけど。3位か4位かなと。なので「行けーっ!」と。あのときは完全にキャラを忘れちゃってました。
――結果、トータル654点で3位の和牛を2点上回りました。ミルクボーイが史上最高得点(681点)を出したときも盛り上がりましたが、あの瞬間も同じくらい盛り上がりました。最後の最後でのどんでん返しでしたから。
松陰寺 頭、真っ白になってましたね。
――シュウペイさんは笑顔でした。
シュウペイ 僕は楽しんでいたんで。
松陰寺 あんま、覚えてないな。あのときのこと。
最終決戦の直前に「ペットボトルの水をこぼした」
――最終決戦は一転、トップバッターになったので、休むことなく連続でネタを披露しなければなりませんでした。松陰寺 めちゃくちゃ疲れましたね、僕は。セリフ量が多いので、よく息を吸うのを忘れちゃって、セリフの途中でガス欠しちゃったりするんです。そうならないようにすごく気をつけてもいましたし。
――1本やると、ぐったりくるわけですね。
松陰寺 僕は疲れますね。ただ、あそこでいったんCMに入ったんで、2分ぐらいは休憩できたと思うんです。なので、そこでちょっと落ち着いて。もう裏で興奮し過ぎて、ペットボトルの水をこぼしたりしてたんで。
2本目、ローラースケートを用意していたって本当?
――2本目、ローラースケートをはこうかどうか迷ったと話していましたが、本当なんですか?松陰寺 いちおう持ってきていたんです。時間に余裕があったら、おそらく楽屋には戻っていたでしょうね。そこで、どうしようかなと考えたと思います。
――2本目のあのネタを、ローラースケートを履いてやろうと。
松陰寺 はい。登場のときだけシューッて出てきて。戻るときもまたシューッて。でも、今考えたら、やらなくてよかったですよね。
――やらなくてよかったと思います。
松陰寺 もともと、いらんことばっかり考えちゃう方なんですよ。だから、ここまでくるのにこんなに時間がかかっちゃった。やんなくてよかったな。
史上最高と言われる2019年のM-1。なぜあれほどの“神回”になったのか。出場した漫才師の連続インタビューでその答えに迫っていく。
最終決戦の「高齢化社会」のネタもウケたぺこぱ。3位に終わったものの、大会後は仕事が殺到、一気に“売れた”。そんな2人あえて聞いてみた。今年もM-1出ますか?
「ミルクボーイ6票、かまいたち1票」どう思った?
――2本目は出だしから、お客さんも完全に受け入れてくれている雰囲気がありました。松陰寺 僕らのネタは変化球なので、2球連続はさすがに通用しないかなと思ったんですけど、いい意味で裏切られましたね。
――最終決戦は、さらに頭を振ってました。
松陰寺 そうそう。「ファ、フィ、フ、フェ、フォ」の発音もちょっと多めにして。
――「ふぁいかた(相方)、なんて、いいふぉふぉろがまえ(心構え)だ」と(笑)。
松陰寺 もうどうせなら過剰なぐらい使っちゃえ、って。
――乗ってると、出ちゃうんですね。
シュウペイ そうですね。わかりましたね。
――最終決戦で3組とも、あれだけウケるということもそうそうないと思うのですが、最後のジャッジが下されるときはどんな心境でしたか。
松陰寺 あれ、正直、1人ぐらい自分たちに入れてくれるかなと思ってたんですよ。
――結果はミルクボーイが6票、かまいたちが1票でした。
松陰寺 1本目も含めて、優勝はミルクボーイさんだろうなとは思っていたんです。でも、1人くらいいるかなと思っていたので、誰も出なかったか……と思って。
――シュウペイさんの3連単予想の1位と2位が当たってしまいました。
シュウペイ 僕も1票も入ってなかったのは悔しかったです。あそこまで来たら優勝したかったので。ぶっちゃけ、泣きそうでした。それぐらいくやしかったです、ほんとは。
――4枚目の「ミルクボーイ」の名前が出た瞬間は……。
シュウペイ くそ! と思ってました。
――いいですね。温和な感じとこのむき出しな感じのギャップが。
シュウペイ まあ、でも最高に楽しめたので。
――松陰寺さんも同じですか?
松陰寺 僕はどうだろうな。くやしい感情が出ないぐらい、ミルクボーイさんがすご過ぎたな、と。あのミルクボーイさんに勝てる人、誰かいるのかな。今考えても思い浮かばないですよね。
「化粧してるやつがM-1で優勝しちゃダメ」
――私はおもしろいおもしろくないはもちろんですが、M-1はやっぱりミルクボーイを選ぶだろうなという気がしました。松陰寺 まあ、そうでしょうね。僕らはたぶん優勝しちゃダメですね。化粧してるやつがM-1で優勝しちゃダメだと思います。
――宮藤官九郎さんがラジオで言っていたのですが、M-1の日、家に帰ったら家族にミルクボーイとぺこぱのネタを見せられて。で「どっちが優勝したと思う?」と聞かれて、ぺこぱと答えたらしいんです。家族もぺこぱ推しだったらしく。宮藤さんは分析として、ぺこぱの漫才は、漫才という枠組みを壊しちゃった笑いだから、M-1では勝てなかったのではと話していて。すごく納得しました。歴代、おもしろかったけど勝てなかったコンビは、結局、そういうことなのかなと。おもしろくても、漫才の大会である以上、漫才を壊し過ぎちゃいけないんでしょうね。
松陰寺 それ、わかります。M-1は、あんな変化球で優勝しちゃダメですよ。
――でも、その変化球を探し続けていたわけですもんね。その変化球を「新しい」とも言うわけじゃないですか。
松陰寺 関西のド直球な漫才にはかなわないですからね。それはそうなんですけど、どうであれ、今回はミルクボーイさんが1番だったというのは揺るぎないと思います。
あと3年、M-1の挑戦権がありますが、どうしますか?
――でも、いつか、漫才をぶっこわした漫才で優勝するコンビを見てみたい気はしますね。お2人は今後、M-1はどうされるのですか。あと3年、挑戦権がありますが。松陰寺 今年、大会できるんですかね。あったとして、どうしようかな……。決勝に残るのって、めちゃくちゃいばらの道だから。なのに去年みたいにネタを劇場でかけられてないので。そんな簡単じゃないですからね。
――オードリーのように、ここまで売れたら、もう潔く身を引くという手もありますよね。
松陰寺 うん、悩みますね。出ても、今回よりも出来が悪かったら、マイナスなイメージもついちゃいますしね。いずれにせよ、出場するなら優勝するぐらいのネタを引っさげて行かないと。
「カミナリは、もっと評価されてもいいと思うんですけどね」
――決勝に2度出場しているカミナリも1年休んで、今回また出場して準決勝で涙をのみました。個人的にはすごくおもしろいんですけど、初めてファイナルに出場して、そこでブレイクしてからは、なかなか点数が出ないですもんね。松陰寺 そうなんですよ。僕はカミナリは、もっと評価されてもいいと思うんですけどね。ただ、カミナリと違って、僕らは変化球ですから。変化球を2年連続でやると、変化球じゃなくなっちゃいますから。そこはデメリットですね。
――でも今回の決勝で1本目も2本目もあれだけウケたということは、そんな小手先のものではなく、ひとつの「型」といっていいもののようにも感じました。なので、中味が新しければ、十分通用するのではないですか。
松陰寺 審査員の方がどう見るかでしょうね……。去年と一緒やなあって思うか、この型でまたおもしろいネタをつくってきたなとなるのか。
やっぱり出られるんなら……
――一昨年、決勝に初出場したトム・ブラウンは、予選であれだけウケたのに今回は準決勝で落ちましたもんね。松陰寺 そうなんです。僕はトム・ブラウンとはすごく仲がいいので、ネタもよくみているからわかるんですけど、前年とは全然違うし、違う笑いの取り方もしている。彼らなりに進化はしているんです。でも、そこは評価されなかった。審査員は前年と一緒だねって思っちゃったのかもしれない。そこはすごく残念でしたね。
――シュウペイさんはどう考えているんですか、今後のことは。
シュウペイ M-1は出られるんだったら、出たいですけど。あの決勝の舞台は、やっぱり決勝に行った人しかわからないものがありましたから。特別なところ。すごく楽しめましたし。
松陰寺 もう売れてるのに何回も出場している人っているじゃないですか。これまではそういう人を見ていて、もう売れてるんだからいいじゃん、僕らの枠を取らないでよって思ってたんです。でも今回、初めて決勝にいって、その気持ちはわかりましたね。漫才をやっている以上、やっぱり出られるんなら出たい。M-1は永遠の夢舞台です。
ぺこぱ/松陰寺太勇(ツッコミ担当)とシュウペイ(ボケ担当)のコンビ。松陰寺は1983年11月9日山口県出身。シュウペイは1987年7月16日神奈川県出身。アルバイト先の渋谷の居酒屋で出会い、2008年に結成。
2019年『ぐるナイ』の「おもしろ荘」で優勝。M-1では10年、16年3回戦、18年に準々決勝進出。19年に初の決勝進出で3位に。