上沼恵美子「よう決勝残ったな」&松本人志「僕は好きじゃない」…M-1審査史に残る2大“酷評コメント”

漫才日本一を決める『M-1グランプリ』は、単なる漫才の大会という枠を超えた究極のエンターテインメントである。厳しい予選を勝ち抜いた気鋭の漫才師による熱の込もった漫才が『M-1』の最大の魅力であるのは間違いない。しかし、この大会の面白さはそれだけにとどまらない。個性豊かな審査員による「審査」も大きな見どころだ。

審査員は今年もオール巨人、上沼恵美子、立川志らく、サンドウィッチマン富澤、ナイツ塙、松本人志、中川家・礼二。3年連続で同じメンバーである。

それぞれの審査員がネタを見て何点をつけるのか、どういうコメントをするのか、といったことが視聴者の興味をそそる。大会が終わった後には、ときにネタの中身自体よりも審査員のコメントの方が世間では話題になり、「あの審査員がああいうことを言った意図は何なのか?」といったことが議論になったりする。

審査員のコメントが特に話題になるのは、低い点数をつけた審査員が出場者に対して厳しい言葉を投げかけるときだ。ここでは、近年の『M-1』で審査員のコメントが波紋を広げた2つの例を取り上げたい。

上沼恵美子「好みじゃない」「よう決勝残ったな」
1つは、2017年大会でのマヂカルラブリーに対する上沼恵美子のコメントである。この年、6番手として登場したマヂカルラブリーは、ミュージカルを題材にした漫才を演じた。

しかし、残念ながらどの審査員も低い点数をつけたため、その時点で最下位に沈み、敗退が確定。最終的な結果も10組中10位の最下位となった。

中でも、上沼は「83点」という極端に低い点数をつけていた。司会の今田耕司にコメントを求められた彼女は「ごめん、聞かないで」とツカミのジャブを放った。そこから怒涛の「上沼劇場」が開幕した。

「好感度上げようと思ったら審査員もね、いい点をあげれるのよ、押したらいいわけです。でも本気で挑んでるんで、みんな。本気で私も一緒に見てます」

審査員としての責任感を持って低い点数をつけたことを説明する上沼に対して、マヂカルラブリーの野田クリスタルが「(こっちも)本気で挑んでるから。本気でやってるから」と口を挟んだ。これに反応して、上沼がさらにヒートアップした。

「本気でやってるっちゅってんねん、こっちも! 一生懸命がんばってる。がんばってるのはわかるけど、好みじゃない」「よう決勝残ったな、思って」

「惨事」が「大惨事」に…

彼女がマヂカルラブリーをここまで酷評したのは、明らかに場を盛り上げるための意図的なものだ。生殺しのままではお互いが損をする。殺すならきちんととどめを刺す。そうすることでこのやり取りが1つの「ネタ」として成立する。彼女はあえて自分が悪者になることで、惨めな状態のマヂカルラブリーを救おうとしていた。

だが、上沼の助け舟も彼らには届かなかった。今田に「最後に言い残したことは?」と尋ねられた野田は、その場でおもむろにシャツを脱ぎ始めた。突然の奇行に会場がざわついた。生放送で野田が全裸になることを警戒して、今田は野田の前にスッと歩み出た。

野田はもたつきながら上半身裸の状態になり、鍛え上げた筋肉を見せてポーズを取った。会場が静まり返る中で、今田が何とか場を収めた。

上沼とマヂカルラブリーのやり取りが多くの人の印象に残っているのは、上沼の酷評の後に野田が自らの傷を押し広げる暴挙に出たからだろう。これによってただの「惨事」が「大惨事」となり、人々の記憶に深く刻まれることになった。

松本人志「僕はそんなに好きじゃない」
もう1つは、2019年大会でのニューヨークに対する松本人志のコメントである。1番手として登場したニューヨークは、歌ネタの漫才を演じた。

1番手で比較対象がないものの、全体的に点数は伸び悩んでいた。最終的な結果も10組中10位の最下位だった。だが、審査員の多くは彼らのネタを低く評価していたわけではなかった。

このとき、今田は立て続けに5人の審査員に話を振っていた。5人はニューヨークの漫才をそれなりに高く評価して、好意的なコメントをしていた。5人が話をした後、最後に松本がコメントを求められた。彼だけが「82点」という極端に低い点数をつけていたからだ。そこで松本は答えた。

「まあ、僕の好みなんでしょうけど、最近ツッコミの人って、結構こう笑いながら楽しんでる感じが、僕はそんなに好きじゃないんですよ……」

「最悪や!」「俺の話、聞けや!」

松本が話している最中に、割って入るようにニューヨークの屋敷裕政が「最悪や!」と叫んで肩を落とした。そのタイミングの良さにドッと笑いが起こった。

その後も松本は話し続けようとするが、ニューヨークの2人は落ち込んでいて耳を貸さない。業を煮やした松本が「俺の話、聞けや!」と叫んだが、それでも彼らはすねた態度を崩さなかった。

屋敷の「最悪や!」というコメントを聞いた瞬間、私は震えた。そもそも、現代お笑い界の帝王である松本が自分たちに話しかけてくれている最中に、割って入って何か言うこと自体が並大抵の度胸ではない。そこで笑いを起こし、強引に自分たちの空気に持っていったのもすごい。彼らの尋常ではないスキルの高さを感じた。

実際、このやり取りが業界内で評価され、ニューヨークはテレビ出演の機会を増やした。この年のファイナリストの中では、ミルクボーイ、かまいたち、ぺこぱの「3トップ」には及ばないものの、彼らに次ぐ躍進を見せている。

そして今年、マヂカルラブリーとニューヨークの2組はいずれも決勝に駒を進めている。マヂカルラブリーは上沼との因縁を、ニューヨークは松本との因縁を、テレビやライブでもたびたびネタにしてきた。

酷評された芸人が再び決勝に出ることで、新たな物語が生まれる。『M-1グランプリ』は壮大な歴史をつむぐ大河ドラマである。だからこそ毎年目が離せないのだ。

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