長瀬智也を唯一無二の俳優にした3つの拠り所

27年間、芸能界の最前線に立ち続けた彼の軌跡

冬ドラマの中でも評価の高かった『俺の家の話』(TBS系)が3月26日で最終回を迎えました。この作品で大家族の長男を演じた長瀬智也さんは3月31日をもってジャニーズ事務所を退所。

3月28日放送の『ザ!鉄腕!DASH!! 3000歩でTOKIOは全員集合出来るか?SP』(日本テレビ系)と3月31日放送の『TOKIOカケル』(フジテレビ系)が、ジャニーズ所属中の最後のTV出演になりそうです。

今後の芸能活動については、半年以上前に公式発表があり、そこには「他事務所に所属することなく、裏方としてゼロから新しい仕事の形を創り上げていくことになりました」と記されています。

長瀬発案のドラマをクドカンとTBSが実現した
『俺の家の話』ではプロレスラー役のために肉体改造をして体を大きくし、ハードなファイトシーンもスタントなしで演じたという長瀬さん。また、西田敏行さん演じる父親との家族愛あふれるシーンでは泣かせ、戸田恵梨香さん演じる恋人とのシーンではおとぼけで笑わせと、喜怒哀楽のすべての感情を見せて熱演。

まさに「現時点での長瀬智也の最高傑作」(公式サイトの磯山晶プロデューサーのコメントより)にふさわしい名演技でした。それだけにネット上では「俳優を引退してしまうのでは?」と心配する声がありますが、そこは明言されておらず、現実的に考えれば、裏方もやりつつ時には役者として出演するスタンスになるのではと思われます。

既に3年前の映画主演作『空飛ぶタイヤ』公開時、インタビューで「出演を決めるときは、他の誰でもない僕が表現したほうがいいのかを考えます」と語っています。今後も、長瀬さんがこの役柄は自分が演じたほうがいいと判断すれば、表に出てくることもあるのではないでしょうか。

長瀬さんがクリエイター志向であることは、作詞作曲もする音楽活動からも明らか。『俺の家の話』も、まず長瀬さんと脚本の宮藤官九郎さんの間で、自分たちが親の世代になった現在、親子の物語を作りたいというアイデアが出て、それを連続ドラマでやろうと場を提供したのが、長年2人と組んできたTBSの磯山プロデューサーだったとのこと。

企画ありき、テーマありきでものづくりをしていこうとする姿勢は既にクリエイターであり、自分がタレントとしてトップに立ち続けたいというような欲求とは、ひとつ区切られた場所にいるようです。今回のジャニーズ卒業に当たっても、あくまでオープンでクリーンに、声高にもウエットにもならず、その瞬間を迎えようとする姿に好感を抱く人は多いでしょう。

これまでの長瀬さんのキャリアを振り返ってみると、まず1993年に学園ドラマ『ツインズ教師』(テレビ朝日系)でドラマ初出演。1994年にはTOKIOのボーカルとしてCDデビューしました。

それ以降ドラマに出ながら、TOKIOとして音楽やバラエティ番組で活動。1996年、青春ドラマの『白線流し』(フジテレビ系)ではナイーブな高校生を演じて女性人気が高まり、同作はシリーズ化されました。2001年の『ムコ殿』(フジテレビ系)では、演じた歌手の桜庭裕一郎名義でCDや写真集をリリースしヒットさせるなど、アイドルとしては人気のピークに。

「イケメンの宿命」から解放してくれた宮藤官九郎
ただ、その桜庭役にしても「ひとりぼっちのハブラシ」というおかしなタイトルの歌を歌うなど、二枚目半のキャラクターでした。

同時期に『池袋ウエストゲートパーク』(TBS系)で宮藤さんと出会い、サブカルチャー色の強い演劇的な作品をこなしていくことによって、常にかっこよくなければならないという、いわゆるイケメンの宿命から早い段階で“降りる”ことができました。

そんなホームグラウンドとも言える座組があったことは、長瀬さんにとっては、大きかったでしょう。その後も、宮藤さんと組んだ『タイガー&ドラゴン』『うぬぼれ刑事』(いずれもTBS系)、映画『真夜中の弥次さん喜多さん』(2005年)、『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』(2016年)でコミカルかつ弾けた演技を見せ、女性だけでなく男性からの支持も得てきました。

また、TOKIOの活動でもアイドルながら『ザ!鉄腕!DASH!!』で農業に本気で挑戦するなど肉体労働も厭わず、視聴者が親近感を抱きやすい存在に。

そして、音楽活動ではアイドルバンドから始まったとはいえ、ボーカルだけでなく楽器を弾いたり作詞や作曲も手掛けたりし、クリエイティブな才能を発揮していきました。

2013年の「リリック」(主演作『泣くな、はらちゃん』主題歌)以降は、TOKIOのほとんどのシングル曲で長瀬さんが作詞作曲(ときに編曲まで)をしています。ドラマに主演し、その主題歌を自分で作り自分で歌うというスタイルは、多くの才能が花開いた平成の芸能界でも福山雅治か長瀬智也ぐらいしかいません。

さらに、生き馬の目を抜く競争社会である東京の芸能界を離れ、出身地の横浜で過ごす時間があったことも、長瀬さんの心の支えになっていたようです。筆者がインタビューした「横浜ウォーカー2018年初夏号」(KADOKAWA)ではそんなホームタウンに対する思いを語ってくれました。

高校生の頃から横浜港のあたりに遊びに行き、オートバイ好きの先輩たちと語らっていたと明かし、「そこでは僕が芸能界にいることなんて関係ありませんでした」「地元に帰り仲間と過ごす時間は、かけがえのないもの。実は仕事につながるスキルを獲得したり、いろんなことを創造できたりする時間でもある。それがあるからこそ、今でも仕事ができている」と告白しています。

彼の活躍を支えるホームタウンの「横浜人脈」
『空飛ぶタイヤ』の出演時には運送会社の若社長を演じるに当たり、横浜の友達で社長をしている人に話を聞いたということでしたし、『俺の家の話』でもプロレスラー役のため、幼なじみのプロレスラー勝村周一朗さんに相談して練習に付き合ってもらい、その成り行きで勝村さんがドラマ本編に出演することになったというエピソードも、長瀬さんの“横浜人脈”が活きた例でしょう。

TOKIOの最年少メンバーにしてグループの顔。27年間、役者も歌手もタレントもというハードなマルチタスクを健全に続けてこられたのは、きっと芸能界の競争原理とは別の価値観を持つ人たちと交流できる場があったから。

そう考えると、偶然にも長瀬さんの演じてきた役柄は『俺の家の話』のプロレスラー兼能楽師をはじめ、ヤクザで落語家であったり、ヤクザで高校生であったりと、いつくかの足場を持つ人が多かったのです。

そんな3つの拠り所を持ちながらアイドルを脱皮しクリエイターとなった長瀬さんなら、演出もやるけど今回は出るよという感じで、数年後、映画やテレビに復帰することもありえます。『俺の家の話』では、長瀬さん演じる主人公に長州力(本人役)が「何回引退しても、何回もカムバックすりゃいいんだよ」と声をかけるシーンがありました。

折しも、4年前にジャニーズ事務所を退所した草彅剛さんが、日本アカデミー賞主演男優賞を獲得したタイミング。信頼できるクリエイティブなチームと気の許せる仲間というものが俳優にとって一番の武器ということが証明され、今、芸能界は確実に変わり始めているように見えます。

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