古巣アーセナルの危機に帰ってきた元主将
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来シーズンが楽しみ!!そろそろ優勝争いに加わって、最低でもCLの出場権を!!

今季のイングランドの国内カップ戦「FAカップ」で、見事王者に輝いたのはアーセナルになった。アーセナルと言えばロンドンの強豪であり、タイトル獲得に対して本来はなんの意外性もないかもしれない。ただし今季の北ロンドンの雄はリーグ戦で8位に沈むなど非常に苦しいシーズンを送っていたこともあり、平時以上に価値のある戴冠になった。

狂い始めたチームの歯車
今季は、ウナイ・エメリ体制の2年目として結果が求められる勝負のシーズンを迎えていた。序盤は開幕2連勝と幸先良いスタートを切ったものの、秋頃からチームの歯車が狂い始める。

そのきっかけとなったのが第10節のクリスタル・パレス戦だ。この試合、前半に2点を先行して余裕の試合展開になるかと思われたが、その後その2点差を追いつかれ2-2のドローで決着。さらにその試合中、チームキャプテンのMFグラニト・ジャカが途中交代する際にホームサポーターから浴びせられたブーイングに対し、挑発するようなポーズを見せたことが大きな問題としてメディアに取り上げられるなど、後味の悪い試合となってしまった。

このジャカの行為もあってか、エメリ監督はジャカからキャプテンの座を剥奪することを決断する。こうして5位に位置していたチームに暗雲が立ち込み始めた。するとアーセナルはこの試合を境に勝利の女神から見放され、公式戦7試合未勝利という27年ぶりの不名誉な記録を樹立してしまう。まるで残留争いをしているチームかのような成績に、以前からエメリ監督に不信感を抱いていたファンの不満も限界に達しようとしていた。さらにはエメリ監督と選手との衝突が盛んに報じられ、ピッチ外での不協和音も生じ始めるなど、アーセナルは壊滅的なチーム状況へ陥(おちい)っていた。

悪い空気を一変させたアルテタ新監督の就任

こうした状況を受け、上層部もついに堪忍袋の尾が切れたのか、EL(ヨーロッパリーグ)でフランクフルトに敗れた翌日の2019年11月29日、ウナイ・エメリ監督の解任が発表された。暫定監督としてアシスタントコーチを務めていたフレデリック・リュングベリが就任したものの、この人事はあくまで一時的な処置で、その裏では新たな後任探しが進められていた。そして何人もの候補者の名前がうわさに挙がっていた中、新たな監督としてチームの再建を託されたのがクラブのOBで主将も務めていた経験もあるスペイン人のミケル・アルテタであった。アルテタはマンチェスター・シティでペップ・グアルディオラ監督の元、約3年間アシスタントコーチを務めていたが、かねてからいつかは古巣であるアーセナルの元へ戻りたいと述べていた。その願いが期せずして叶うこととなった。

こうして崩壊寸前のチームを立て直すという難しいミッションが課せられることとなったスペイン人指揮官は、チームにまん延していたネガティブな雰囲気を変えるために選手とのコミュニケーションを徹底して行った。

その中でも印象的だったのが、冬の退団が決定的と見られていたグラニト・ジャカがアルテタ監督の説得により残留を決断したということだ。イギリスメディア『スカイスポーツ』によると、前述の騒動によって出場機会を失っていたこともあり、違う環境へ身を移すことを決意していたジャカに対し、アルテタ監督自らジャカがいかにこのクラブに必要なのかを説き、クラブの全面的サポートを約束したというのだ。こうしてジャカは以前のようにチームへ欠かせない選手として息を吹き返した。シーズン終了後、ジャカはイギリス『BT Sport』のインタビューで当時を振り返り「彼は僕にもう一度チャンスを与えてくれた。信頼してくれた彼に全てを捧げたい」と明かし、アルテタ監督への感謝を述べている。

こうした新監督の献身的なチームマネジメントもあり、就任後のリーグ戦では4試合連続ドローなど苦しんだ時期もあったが、試合内容はエメリ政権下と比べてチーム全体の守備意識が高まるなど大幅に改善傾向を見せ、最終的には9勝6分5敗と一定の成績を収めた。順位こそ前半戦の結果が響き25年ぶりにトップ6陥落の8位という厳しい結果に終わったものの、ピッチ内だけ見れば、来シーズンに向けての先行きは決して暗くはない。

宿敵を倒してつかんだFAカップ優勝

リーグ戦では苦戦続きだった一方、アーセナルは得意としているFAカップで順調に勝ち進んでいた。準決勝では公式戦で7連敗中と苦手にしていた、アルテタの恩師グアルディオラ率いるマンチェスター・シティ相手に、超守備的な戦いで臨み、2-0の勝利を収めて決勝に進出を果たした。決勝の相手は宿敵チェルシーとのビッグロンドンダービー。アーセナルはすでにリーグ戦での欧州カップ戦出場権獲得の可能性が潰えてしまっていたため、勝てばEL出場権獲得、そしてアルテタの監督として初タイトルとなるこのFAカップ決勝がシーズン最終戦にして最大の大一番となった。

迎えた決勝は、開始早々チェルシーのFWクリスティアン・プリシッチに先制ゴールを許してしまう厳しい立ち上がりとなった。この窮地を救ったのはチームのエース、ガボン代表FWピエール・エメリク・オーバメヤンだった。前半26分、抜け出したオーバメヤンがスペイン代表DFセサル・アスピリクエタにペナルティエリア内で倒されPKを獲得すると、そのPKを自ら冷静に決めて同点に追いつく。そして後半22分、またしてもオーバメヤンが今度はエリア内でフランス代表DFクルト・ズマをかわし左足で鮮やかなループシュートを決め逆転に成功する。その後はアルゼンチン人GKエミリアノ・マルティネスを中心にチェルシーの攻撃を封じ、2-1の逆転勝利で優勝を決めた。この優勝でアーセナルは自らの最多優勝回数を更新する14度目の優勝となり、13-14シーズンにチームのキャプテンとしてこのトロフィーを掲げたアルテタは今回は監督としてその時を迎えることとなった。

選手たちもリーグ戦で苦しいシーズンを過ごした分、このFAカップ優勝は喜びもひとしおだったことだろう。特にドイツ代表の正GKベルント・レノの負傷により出場のチャンスを得たマルティネスが優勝後のインタビューで見せた涙は、彼のここまでの長い道のりを感じさせるもので胸にこみ上げるものがあった。

また優勝後のロッカールームでは、選手と一緒に嬉しそうにはしゃぐアルテタの姿があった。監督に就任してからこの短い期間で選手との信頼関係を確固に築き上げたことがうかがえる何とも微笑ましい光景だった。もしエメリ前監督があのまま続投していたら、この光景は見ることはできなかっただろう。

セレモニーではキャプテンのオーバメヤンがトロフィーを掲げる前に落としてしまうシーンがあった。この件についてアルテタ監督は「彼にはもっとトロフィーを扱ってもらう経験が必要だね。われわれがそれに慣れさせて行くよ」と粋なコメントを残している。来シーズンは無事にカップを掲げる姿が見られることを期待したい。

その決勝で大活躍を見せたオーバメヤンも、監督交代によって大きな変化を見せた選手のうちの1人だ。エメリとの不仲やクラブ退団のうわさが報じられるなど難しい時間を過ごしていたチームのエースであったが、監督交代後はアルテタ監督から大きな信頼を得たことで以前はあまり見られなかった守備に奔走するシーンが増えるようになり、ゴール以外の部分でもチームに大きな貢献を果たした。何よりアルテタ政権下ではここまで守備的に戦うことも多く、決定機は多くないが、その少ないチャンスをことごとくネットを揺らすワールドクラスの得点感覚で違いを作り続けた。

優勝後のインタビューではファンへの感謝の気持ちを述べたアルテタ監督。そのメッセージから、彼がどれほどこのアーセナルというクラブや選手、ファンに対する強い思いを持っているのかが伝わってきた。きっとアーセナルのファンは、誰よりもこのクラブをこよなく愛しているアルテタに、ヴェンゲルのように長い間クラブを指揮してほしいと願っているはずだ。

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