堀口恭司が語る朝倉海とのRIZIN史上最大の大晦日リベンジ戦「あの兄弟。調子に乗っているので…」

総合格闘技イベント「RIZIN.26」(大晦日・さいたまスーパーアリーナ)のメインイベントで朝倉海(27、トライフォース赤坂)が持つRIZINバンタム級王座に挑戦するのが堀口恭司(30、ATT)だ。昨年8月に朝倉にまさかのKO負け、その年の11月には右膝の前十字靭帯の修復手術と半月板手術を行い長いリハビリを経ての1年4か月ぶりの復帰戦が即再戦となった。ビッグマッチに挑む堀口が練習拠点のある米国フロリダから独占オンライン取材に応じた。

「ぶっとばさないとダメ」
朝倉兄弟のYouTubeも見る。
「何回か見ました。面白かったですね。なんだったかなあ。ぼったくりバーに行くシリーズとか、へずまりゅう(迷惑系YouTuber)とのスパーとか…」
それでも格闘家を兼ねているYouTuberの映像を素直に楽しむ心境にはなれない。
正直に言えば、朝倉兄弟にはむかついている。
「あの兄弟、調子に乗っているので、ぶっとばさないとダメですね(笑)」
――兄の朝倉未来は負けました。
「それについては別に何も思わないですよ」

兄の朝倉未来は11月21日に大阪城ホールで行われたRIZINフェザー級王座決定戦で修斗世界フェザー級王者の斎藤裕に判定で敗れた。
「修斗チャンピオンの斎藤裕選手が強かったということ。ペースをつかみ手堅く勝ったという印象ですね」
同じく修斗出身の堀口にすれば、溜飲を下げた一戦だったのかもしれないし、それが弟の海戦へつながる序曲のようにさえ思えるのだが、堀口は気にもかけていなかった。あくまでも標的は…朝倉海である。

リモート取材の画面に現れた米国フロリダにいる元2冠戦士は、約束の時間にほんの少しだけ遅れたことを詫びた。リング上で近寄りがたい殺気をまとうファイターは、スイッチを切れば、いつも誠実で何を聞いても柔和な顔をしている。
現地時間午後9時。聞けば練習が押したという。
「海戦のプランをトレーナーと練っていました。今日は自分の弱点をどう克服するかという話を」
榊原信行CEOが「RIZIN史上最大のリベンジマッチ」と称する朝倉海との大晦日決戦が近づいている。

「一回負けているんで何も言えないけど“次は見てろよ、この野郎”って感じですかね(笑)。互いに打撃系の選手なんで打ち合いになるのかもしれないが、打撃や寝技に固執するのではなくトータルで戦うことになると思います」

昨年8月の名古屋。右カウンター一発で倒された。その一撃で記憶が飛び、試合のことは何も覚えていない。だが、朝倉海には入り際の癖を見抜かれていた。
「誰だって癖はありますから」
コンビを組むATTのトレーナー、マイク・ブラウン氏は、逆に朝倉海の弱点を発見したという。
「欠点を見つけてくれました。こっちがこう動けば、相手がどう動くか、という中でね」
ブラウン氏も来日予定。最終調整を見てもらい当日のセコンドにもついてくれる。それが何より心強い。

この1年で堀口が返上したRIZINバンタム級のベルトは2度動いた。朝倉海は堀口と再戦するはずだった大晦日にマネル・ケイプ(アンゴラ)との王座決定戦に挑み2回にTKO負けし、そのケイプがUFCに電撃移籍したことで、再び返上されたベルトを扇久保博正と争い、朝倉海が腰に巻いた。この9月には昇侍を相手に初防衛に成功している。

「ここ2試合は、蹴りを使えるようになったり、うまく(打撃を)散らせるようになっていますが、スタイルは変わっていない。そんなに変化はないっすね」
それがリベンジ戦に向け朝倉海を裸にした答えだ。

1年4か月ぶりの復帰戦である。
ずっと痛みに苦しんでいた右膝にメスを入れたのが昨年の11月。その3か月後に帰国していた堀口に会ったが、器具で膝を固定して松葉杖。とても痛々しかった。慎重にリハビリメニューを終えると米国へ戻り打撃、寝技、組みと順を追って練習を再開した。実戦的な練習ができ始めたのは8月頃。当初、戸惑いがあったという。
「まるで足がない、感覚がない感じになった。いつもならこう動いているのになあというところで全然動いていないんです」
自分の足であって自分の足ではない。
格闘家にとって、それは絶望的な現象である。
それでも引退という2文字が頭に浮かんだことはなかった。
「ないです。アホなんでしょうね(笑)。また怪我するならしたらいいじゃん。たとえ足がもげても大丈夫だろうと」
いつも堀口は自らを「アホ」「バカ」と卑下して見せる。それは鈍感力というべき一種の才能なのかもしれないが、今の自分と正しく向き合い、それを受け入れ、今のベストを探る。
「足が動かないなら前のスタイルに戻さなければいい。たとえばガードを上げて詰めるとか、動かないスタイルで戦えばいい。そう考えたんです」
だから堀口は空白の1年に「進化した」と言うのだ。
「体の使い方をより考えるようになった。無理な体勢から余計な力を使わずもっと簡単に力を出せる方法」
堀口は試合のできなかった時間を「有意義な時間だった」とも言った。

それでも不安点は残る。前哨戦なしで復帰戦がいきなりのビッグマッチである。榊原CEOから「いきなり海戦でいいのか?」と何度も念を押されたが、堀口の選択肢は一つだった。
「ウオームアップマッチをするなら9月か11月。それではまだ早いと感じた。海君も、そんなに待てないと思う。朝倉兄弟は自分らのことしか考えていないので(笑)。俺なんかを待っていないとも思った。じゃあ、ここでやるしかないなと」

ブランクによる試合勘の欠如、リング上での反応…加えて米国から帰国する堀口は、新型コロナ対策で2週間の自主隔離をしなければならず、その間、調整は停滞する。だが、それらの不安点も堀口は一蹴した。
「心配する部分は何もない。準備を以前よりできていることは間違いないんです。自分の場合は試合で緊張しないし、いつもやっている練習が人前になるだけ。試合勘も問題はない。何度かガチスパーをやって動けているんで」
ここ2年は手術した膝だけでなく腰も含めて満身創痍の状況で満足のいく準備ができていなかった。いつも痛みというもう一つの敵と戦い続けなければならなかった。そこから解放されただけでもプラスだ。
「今の状態をパーセンテージで言えば5、60%かな。どんどん良くなっているし最終的に100%にするのは厳しいが、90何%までは持っていけますよ」

一方で朝倉海は堀口とのリベンジ戦よりも、その先の話をする機会が増えていた。米国の総合格闘技団体の最高峰「UFC」への挑戦や、もうひとつの有力団体「ベラトール」のバンタム級王者であるファン・アーチュレッタ(米国)との対戦要望である。
榊原CEOも「海はアーチュレッタを呼んでくれないかという話をしていた。でも準備が間に合っているなら堀口でいいですとも」と話していた。
――堀口戦は眼中にないような発言にむかつきませんか? そう挑発してみたが堀口はニヤっとしただけ。
「まったく気にしていません。言っていればって(笑)」
朝倉兄弟にむかついてはいるが、その感情をリングに持ち込むつもりは毛頭ない。
「そういう感情はない。コンピューターじゃないけれどリングに持っていくのは、こうきたら、こう、こういけば、こうというような戦略だけです」

堀口もベルトを取り戻した後のことを頭に描いている。それは強者に共通したモチベーションである。
「ベラトールのベルトを取りました、返しました、ではダメでしょう。恩返しはしたい」
昨年6月にニューヨークでダリオン・コールドウェル(米国)の持つベラトールバンタム級王座に挑戦、判定で勝利した堀口はマディソンスクエアガーデンの金網の中でRIZINとベラトールの2本のベルトを掲げた。だが、このベルトも一度も防衛しないまま返上。現在のバンタム級王者は、朝倉海が対戦を熱望しているアーチュレッタである。
アーチュレッタに勝てますか?そうストレートに聞くと「まあ勝てますよね。みんなハイレベル。このクラスは、ひとつミスをすれば負ける。そういう戦いにはなりますがね」と即答した。

米国での環境も変えた。これまで米国フロリダにあるATTの練習場2階の合宿所で生活をしていたが、8月に現地に一軒家を買って“寮”を出た。億まではいかないらしいがン千万円の買い物をポンとキャッシュで購入した。プール付きでゲストルームも3つある。
「合宿所は海外から来るお金のないファイターが入るところなのに稼いでいる俺がいつまでもいたら申し訳ないじゃないですか。こっちではプール付きは当たり前なんですが、それがあるんでここにしたんです。膝のリハビリに使えるかなと」
一人暮らしには持て余すが、3つあるゲストルームはファイターへ無料の下宿として提供しているという。
ーー侍がついに一国一城の主となりましたね。また違った背負うものが出てくる?
そう聞くと堀口はクビを振った。
「結婚もしていない。背負うものはない。なんだかんだ言って一人もんですからね。いつ死んでもいい。足がぶっとぼうが、捨て身でいける。家族を持つと、また違うのかもしれませんが、それが独り身の強さなんだと思うんです」
「いつ死んでもいい」の壮絶な覚悟が胸の奥にある。
――応援してくれている人々を笑顔にするのがモチベーションでは?
「負けて周囲の人たちが悲しんだことが一番悲しかったんです。今度はみんなで笑いたい。お世話になっているATT、両親、兄弟、空手の恩師、二瓶弘宇さん(故人)の息子さん、地元で応援していただいている方々には、いい思いをしてもらいたい」
戦う理由…つまりイデオロギーを持つファイターは強い。榊原CEOによると堀口は今日6日に帰国予定となっている。

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