『松本人志』が約30年前に予言した“テレビの将来”が現実に!?

1993年から2年間、「週刊朝日」で連載し、計400万部以上ものベストセラーを生み出した松本人志さん。約30年前を振り返り、「嘘ばっか書いてたはずなのになー」とテレる松本さんを当時の連載担当、矢部万紀子さんがインタビュー。

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松本人志さんの著書『遺書』と『松本』は、週刊朝日の連載をまとめたものだ。1993年7月16日号から95年7月14日号までの連載で、隣のページには故・ナンシー関さんの「小耳にはさもう」が並んでいた。

松本さんはある雑誌でナンシーさんと対談、そのことを連載に書いた。連載が「話したことを誰かがまとめる」スタイルだとナンシーさんが思っていたことに驚き、こう反論した。<いやいや、オレをみくびってもらっては困る。私生活はともかく、仕事においては、いっさい人まかせにしない。人にも厳しいが、自分にはもっと厳しい、男(お)ットコ前芸人なのだ>

連載担当者として改めて書くが、文もイラストも100%松本さんだ。手書きの文字とイラストが毎週ファクスで送られてきて、締め切りに遅れたことは一度もない。内容は徹頭徹尾、お笑い論で、テレビ局に映画会社、お笑い芸人に著名な評論家、所属する吉本興業まで俎上に載せて厳しく論じた。「笑い」への愛と自負がにじみ、批判する相手も実名だった。

それをまとめた本だ。売れるのは当然で、94年9月に発売した『遺書』は3カ月で100万部を突破、翌年発売した『松本』は1カ月で100万部を突破した。

『遺書』の方が長くかかったのは初版部数が少なかったからで、発売時、松本さんは5万部という数字をあげて、こう書いた。<まずオレが(週刊朝日に)言いたいのは、「おまえオレをなめとんのか!」ということである>

以来、『遺書』は232万1000部、『松本』は156万1000部売れている。文庫『「松本」の「遺書」』もあり、こちらは38万9000部だ。

というわけで、週刊朝日創刊99周年にあたり、松本さんにインタビューした。最初に、「連載時のタイトルを覚えていますか」と尋ねると、「えー、『遺書』じゃなかったんでしたっけ?」。はい、「遺書」ではありません。正解は、「オフオフ・ダウンタウン」。仕事を離れた日々の出来事を何となくつづる。そんなよくある芸能人コラムを予想、編集部がつけたタイトルだった。

そう松本さんに説明したら、ツイッターの話になった。2013年から始め、現在810万人のフォロワーを持つ松本さんだが、投稿はあまり多くない。2日に1度、4、5日空くこともある。

連載もツイッターもいざ書くとなると、「根が真面目なので」流すことができないという。「ツイッターなんて本来、軽ーくつぶやくものなのに、残るもんやと思うと考えてしまう。だから回数も少なくて。スローボールが投げられない人なんですよね。ま、変なナルシシストなんでしょうね」

そう言って松本さんは笑ったが、驚いた。「スローボールが投げられない」「ナルシシスト」という自己分析、「オフオフ・ダウンタウン」にも出てきたからだ。そう指摘すると、「嘘ばっか書いてたはずなのになー」と笑ってから、こう言った。

「根本は変わってないんですよね。僕の中で、魂みたいな部分は、全然変わってないです」

松本さんが連載で何度も書いたのは視聴率、そしてテレビの「将来」だった。なにしろ初回の書き出しがこうだったのだ。

<テレビ番組雑誌には必ず「視聴率ベスト10」などという胸クソの悪いページがある>

この瞬間、お笑いコンビ「ダウンタウン」の「オフ」の話=オフオフ・ダウンタウンという編集部の予想は見事に外れたわけだが、それはさておき、原稿はこう続いた。

<タレントがこれを意識しだすと、これはもう最悪で、テレビというものがどんどんワンパターン化し、つまらなくなるのではないのか。お笑い番組がいちばん困りものだ。だいたい、笑いなんて、百人中百人が笑うことは、ほんとうはそんなにおもしろいことではないのだ>

あれから28年。松本さんは視聴率、そしてテレビをどう思っているのだろう。

「僕はずーっと視聴率を否定してきました。世帯視聴率のことですけど、それでは本当に面白いものを求めている若い人たちがテレビを見なくなるよって。最近やっと別な数字も注目されるようになってきたけど、連載でもずっと書いていて。何年前から言ってるんだってことですよね」

だからお笑いについては先を読む力があったということだし、「権威」でしょうね。そう言ってから、こう続けた。「もっと前にテレビは気づくべきやったけど、もう手遅れでしょうね。こうやってユーチューブにとられていってるわけですから」

10年、15年前に「コア(13~49歳)視聴率」の大切さに気づいていればよかったけれど、もう手遅れでしょう、と言ったあと、こう付け加えた。「最近は、じいちゃんばあちゃんの見るものも必要やろって、そういう感覚も出てきてるんです。僕もそっちに入りかけてるんで。ダブルスタンダードというか、世帯とコア、両方の視点が必要なんじゃないかと思います」

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