『覚醒剤成分』が検出…【井岡一翔】「疑惑の尿」が消えた!

「『格の違いを見せる』と言いつづけてきた。結果で証明できてよかった」

2020年12月31日、WBO世界スーパーフライ級1位の田中恒成(25)との防衛戦に8R・TKOで勝利。王座を守った井岡一翔(32)は、翌1月1日におこなわれた記者会見で、喜びの表情を見せた。

だが、このとき井岡はまだ知らなかった。試合の直前に採取された彼の尿から、後日ドーピング検査で違法薬物が検出されることを――。事情に詳しいボクシングジム関係者が、こう証言する。

「2021年1月7日に検査がおこなわれ、ほどなく大麻が検出されました。さらに詳しい分析をしたところ、1月19日、『覚醒剤または合成麻薬の摂取が疑われる物質が検出された』と聞きました」

検査をおこなったのは、日本のプロボクシング競技を統括する機関、日本ボクシングコミッション(JBC)だ。スポーツやドーピングに詳しい辻口信良弁護士が言う。

「ドーピング検査においては、同じ尿検体を『A』と『B』の二つの容器に分けます。最初に分析するA検体が陽性でも、選手側が再検査を要求すれば、B検体の分析をおこなうことができる仕組みです」

つまり、井岡から採取したA検体から違法薬物が検出されはしたものの、この段階ではあくまで “疑惑” でしかない。井岡は、「クロ」と断定されたわけではなかった。

ところが、このA検体の検査結果が、井岡サイドに知らされることはなかった。それどころか、事態は奇妙な経過を辿っていく。前出のジム関係者が続ける。

「警視庁が覚醒剤取締法違反容疑で、JBCの検査機関に冷凍保存されていた井岡選手のB検体を押収してしまったのです。違法薬物が検出されてから、すでに1カ月半がたった3月上旬のことでした。

もちろん、JBCが警視庁に知らせなければ、警視庁は薬物検出の事実を知りようもありません。警視庁が検体を押収するように、JBCが仕向けたと言ってよいでしょう」

ボクシング担当記者は、「今回のJBCのドーピング検査への対処は、異例ずくめです」と驚き、こう続ける。

「A検体で違法薬物などが検出された場合、まずJBC理事長が倫理委員会を招集し、審議の結果を選手に通知します。その後、B検体での再検査も陽性となれば、選手の言い分を聞いたうえで、処分を決定します。

その段階で警察に報告することはあると思いますが、JBCとして処分を下す前に、いきなりドーピング検査用の検体を警察に押収させるなんて、聞いたことがありません。しかも、井岡選手は違法薬物が検出されたことも、警察に押収されたことも知らないままだったのです」

では、警視庁の捜査は、その後どうなったのか。警視庁に取材を申し込むと、「個別の事案については回答を差し控えさせていただきます」とのことだった。代わりに、警視庁担当記者が証言する。

「科捜研で実際に鑑定がおこなわれ、鑑定書が作成されたかどうかも定かではなく、4月に入ってから、警視庁からJBCに『この件については、捜査を打ち切ることになった』と連絡があったと聞いています。そしてB検体は、警視庁が全量を鑑定で使い切ってしまったということです」

つまり、JBCは井岡の “薬物疑惑” について、これ以上の検査をおこなうことができなくなったわけだ。今回の手続きに問題はなかったのか。警察官僚出身である澤井康生弁護士は、「一般論だが」と前置きしたうえで、こう語る。

「警察から捜索差押許可状を呈示されたら、スポーツ団体は検体を提供せざるを得ません。覚醒剤取締法違反で刑事裁判になった場合、科捜研や科警研の鑑定書でなければ、証拠能力、証明力が認められないからです。選手の許可は不要ですし、検体を使い切ったとしても、法的な問題はありません」

捜査が打ち切られたのは、どういう理由なのだろうか。

「打ち切りが事実であれば、
(1)検体を鑑定したものの、薬物が検出されなかった
(2)検体を採取してから時間が経過しているなどの理由で、陽性結果が出ても証明力がないと判断された
(3)検体の採取手続きに警察がまったく関与していないことから、B検体が本当に本人から採取されたものか確認できなかった
などの理由が考えられます」(澤井氏)

1月にA検体について “疑惑あり” という検査結果が出てから3カ月あまり。この間、時間を空費したJBCはいったい何をしていたのだろうか。

「じつは、井岡選手のA検体から違法薬物が検出されて以降、警視庁がB検体を押収するまでどころか、つい最近まで、JBCは今回の薬物疑惑に関しては、倫理委員会を一度も開いていなかったのです。これは、疑惑の渦中にある選手に対する “裏切り行為” だと思います」(業界関係者)

前出のジム関係者は、JBCの消極的な行動を、厳しく批判する。

「井岡選手という大物チャンピオンに怯み、警察に処分を丸投げすることで、自分たちが “火の粉” を浴びないようにしたのではないでしょうか。警察が逮捕してくれればそれでよし、『シロ』と証明してくれれば、自分たちは関わらなくてすむというわけです」

複数の関係者によれば、今回の対処を主導したのは、JBCの永田有平理事長だという。永田氏は、(株)東京ドームの顧問も務める。JBCの最高位であるコミッショナーと、No.2にあたる理事長は代々、東京ドームからの出向ポジションだ。現在のコミッショナーは、長岡勤・東京ドーム社長が務める。

井岡のドーピング検査で違法薬物が検出されたのは、じつは東京ドームが、三井不動産の子会社になる手続きのまっただなかでのことだった。TOB(株式公開買い付け)が成立(1月19日)し、東京ドームが臨時株主総会を実施(3月23日)して、上場廃止となる(4月23日)までの期間と、まるまる重なるのだ。

「三井不動産の子会社への移行期間中は、スキャンダルが表に出ることを避けようとした可能性があります」(前出のボクシング担当記者)

永田理事長宛に質問状を送ると、文書で回答があった。

「各質問事項については、井岡選手のライセンスに関わる重大な問題でありますので、一切ご回答できません」

JBCは総則で《不正破壊の行為に対しては、たとえ法規において合法と解釈されることがあっても、フェアープレイと誠実の精神を侵す場合は之を排斥する》と謳っている。はたして今回JBCは、その精神をもって対処したと言い切れるのか。

騒動の渦中にありながら、自分に “疑惑” がかけられていることをJBCから知らされることのなかった井岡。代理人からは、以下のような回答があった。

「ドーピング検査の結果に関する報告は、JBCからは一切受けておりません。タイトルマッチも滞りなくおこなわれておりますので、何らかの異常な結果が生じたとの認識は一切持っておりません。井岡は警視庁から『捜査が終了した』と聞いており、井岡に対する疑いはすでに晴れています」

違法薬物が検出されたことには、こうコメントした。

「大麻に関しては、セルフケアに使用していたCBDオイルの成分が検出されたのかもしれないと考えていますが、覚醒剤はまったく身に覚えがなく、試合後に検体がすり替えられた可能性があるとすら考えています。

B検体を再検査すれば、必ず潔白を証明できるはずだと考えていますが、もしすでに尿検体が残っていないとすれば、井岡にはその機会がありません。一連のJBCの対応は、適正手続きを大きく逸脱しており、JBCに対しては疑念しかありません」

ボクシング界を統括するどころか、混乱を招くばかりのJBCは、今その存在意義そのものが問われる事態になっている――。

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